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だからと言って、彼らに謝罪するつもりはない。これはオレの能力であって、その能力の代償が人の命だっただけだ。たまたま、その代償になってしまった可哀想な奴らだ。
一瞬で足が校舎近くの地面にたたきつけられる。
「痛くない」
はずだった。最悪、足の骨が折れる覚悟はできていた。それなのに、地面に足がつく直前に不自然に風が吹き荒れ、オレの足はふわりと地面におろされた。上を見上げると、必死な顔をした転校生の姿があった。どうやら、転校生はオレと同じ普通の人にはない、特殊な能力を持っているようだ。
「本当に窓から飛び降りるなんて」
(ああ、こいつの根はやさしい)
オレはその場で大の字に寝転がる。太陽がまぶしく身体を照り付ける。そこから、オレは転校生を困らせることが日課となった。
「ねえ、どうしてオレを消さなかったんだ?」
転校生と出会ってから数十年。オレと転校生は一緒に住む仲までになった。その過程にはいろいろな試練があった。ダブルベッドの隣に転がるやつにオレは問いかける。
「別に。ただ、僕は組織から抜け出したいと思った。そのために、お前の力は使えると思ったからだ」
眠たそうな声でつぶやかれた声に険はない。転校初日に見せたあの憎悪に満ちた瞳も今はない。
「お前は今、それで幸せなのか?」
「どうだろうな。お前のせいで僕の人生はめちゃくちゃだ」
奴ははははと力なく笑う。その身体には無数の傷跡があり、見るも無残な有様だった。
「お前の能力の代償を僕に移す」
なぜか、転校生はオレを排除することを選ばなかった。それがどういう心理か知らないが、オレは助かったようだ。その代わり、オレの能力で死ぬ人をなくすために転校生は己に代償が来るよう仕向けた。
人の命を代償にするのに、どうやってその代償を人間一人に抑え込むのか。
「僕の身体に消えない傷を刻む」
人の命が傷一つで済むなら、どうってことはない。だが、その前にどうしても消して欲しい人間がいる。
転校生が所属している組織は、オレの能力でつぶすことに成功した。そして、それがオレの不幸の上に成り立つ能力が最期に出した犠牲者だった。
「お前、そろそろ限界かもな」
人の命を己の傷に変える。そんな無茶のことをしてきた代償が現れ始めている。最近、奴は眠る時間が長くなった。痛みに顔をしかめることも多くなった。そろそろ限界かもしれない。
「最期はお前の手で」
「ふうん」
まだそんなことを言えるのなら、大丈夫そうだ。
そんなことを思ったオレがバカだった。人の命など簡単になくなってしまうものだと自分であれほど経験していたはずなのに。
次の日、奴はオレの眠るダブルベッドの横で冷たくなっていた。
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