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 翌朝、枕元のスマートフォンが振動する音で目を覚ました。  眠い目をこすりスマホのデジタル時計を見た。10:23だ。  電話の発信者は陽平だった。 「えっ?」  慌てて跳ね起き、寝癖を手ぐしで直しながら通話ボタンをタップした。 「ごめん真央ちゃん、起こしちゃった?」 「え? うん、大丈夫……どうしたの?」 「窓開けてみて」  真央はベッドから飛び降りて窓に近づくと遮光カーテンを開いて、外に面する窓を開けた。  アパートに面した車道に車が停まっていて、陽平が「おはよう!」と手をふっている。 「えっえっ、なんでいるの?」 「ごめん急に。ちょっと降りてこれる?」 「えーっ! わかった、待っててまだすっぴんだし」 「ごめんね。あわてなくて大丈夫だから」  真央は今年一番のスピードの十五分ほどで洗顔とメイクを済ませて、デニムにTシャツでクロックスをつっかけて表に出た。 「よかったあ、番号変わってなくて」 「うん……」  変えなかったんじゃなくて変えられなかったのと心の中でつぶやいた。 「陽平も変えてなかったんだね。でもどうしたの? びっくりさせないで」 「うん本当ごめん。でも……来ないと一生後悔すると思って」 「え?」 「その……もし真央ちゃんがその、彼氏とかご主人とかいないんだったら、友達からでもいいから、また、会ったりできるかな……」  真央は驚きすぎて、両手で口元を覆った。 「だって陽平結婚してるでしょ?」 「え? してないよ。あっ、昨日の?」  真央がうんうんとうなずく。 「あれは弟の嫁さんと子ども。甥っ子だよ」 「そうなの? だから陽平に似てたんだ!」 「ごめん、言えばよかったね。じゃあ、あらためて……もう十年以上も前だけど、お別れも言えないまま真央ちゃんの前を去って、ずっと心のこりだったんだ。好きなままだったから。でも、もし闇金が真央ちゃんにも近づいたらって思ったら、あの時はああするしか思いつかなかった。だから自分勝手なのはわかってるけど、今日どうしても真央ちゃんとこ行こうって決めて来た」  この人はぜんぜん変わってない。まっすぐで正直でウソがつけない。  真央は心の奥からこみ上げるものが涙に変わるのを感じた。  涙をこぼすまいと空を見上げた。  昨日の台風がうそみたいな雲ひとつない高い空に、大きな虹がかかっていた。  真央はゆっくりと陽平に歩み寄ると、胸に顔をうずめた。 「陽平ありがとう、勇気もって来てくれて。じゃあ、十年も待たせた罰で、わたしに九州グルメツアーをご馳走しなさい」 「うん、わかった。一緒に九州行こう」 「あと映画も……それと……」  言いたいことが胸にあふれて、真央は言葉につまった。 「わかった真央ちゃん。ぜんぶ一緒に行こう……」  涙声の陽平が、真央の頬を両手でやさしくそっとつつんだ。  あのころとおなじ、やさしい手のひらで。 ー おしまい ー
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