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序章 『宗祇諸国物語』より
越後に睦まじく言ふ人の「来よ」[〜中略〜
]と物せられ、行きて二年を送りにけり。[〜中略〜
]或る暁、便事の為、枕に近き遣戸押し開け、東の方を見出でたれば、一反計り向かふの竹藪の北の端に、怪しの女一人立てり。背の高さ壱丈もや有らん。顔より肌透き通る計り白きに、白き単衣の物を着たり。其の絹、未だ此の国に見慣れず、細かに艶やか也。糸筋赫奕と辺りを照らし、身を明らかに見す。容貌の端厳なる様、王母が桃林にま見え、かぐや姫の竹に遊びけん、斯くや有らん。面色によつて年の程を窺はば、二十歳に足らじと見ゆるに、髪の真白に四手を切り掛けたる様なるぞ、異様なる。[〜中略〜
]明けて此の事を人に語りけれバ、「夫れハ雪の精、俗に雪女と言ふ者なるべし。斯ゝる大雪の年ハ稀に現ると言ひ傳へ侍れど、當時、目の当たりに見たる人も無し。不思議の事に逢ひ給ふかな」と言はれし。
——化女苦朧夜雪――『宗祇諸国物語』
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