第1章 邂逅

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第1章 邂逅

第1話 白昼夢  気がつけば、どこまでも続く見渡す限りの大草原の中に、わたしは一人佇んでいた。  空は青く澄み渡り、さわさわと風が頬を撫で、草の香りが鼻をくすぐる。  あぁ、夢を見ているんだなと、何の感慨も無く思った。  ふと視線を感じ振り返ると、見知らぬ男性が一人、静かに微笑んでいた。  二十才くらいだろうか、均整のとれた長身に金の髪と青い瞳。思わず見惚れてしまい、しばし見つめ合ってしまった。 「佐伯 花子さん、一月四日生まれの中学二年生十四才。お間違いないですね?」    滑舌良く、手にしたファイルを確認しながら問う姿は事務的で、一気に現実味を帯びてしまう。  夢だと分かっているのに現実的という違和感に呆けていると、今度は強めに確認され、わたしは慌てて首を縦に振ったのだった。  イコナと名乗ったその男性が指を鳴らすと、簡素な椅子が二脚と丸いテーブルが現れた。よく庭に置いてあるようなやつと言えば分かりやすいだろうか。イコナはもう一度指を鳴らしティーセットを出すと、紅茶を注ぎつつ座るように促してきた。  わたしが席に着くと、二人分の紅茶を淹れたイコナは向かいに座り事務的に説明を始める。  なんだか面接でも受けている気分で落ち着かない。 「まず最初に、既にお気づきかと思いますが、ここは貴女の夢の中です。貴女の身体は現在休眠中のため、夢という形で意識に干渉しています。ですから何ら怖がることはありません。落ち着いて話をお聞きください。  さて本題ですが、貴女にリンゼルハイト連合国より任務が課せられました。これは拒否することが出来ませんが、その対価として報奨金が支払われます。前金として連合国レートで五百万、成功報酬として一千万、月に一度現地レートで一万です。日本円にして十万円に相当します。これらは技術の取得や支給品の購入に使用できます。任務地は六十七太陽系第四惑星オルド。任務内容はオルド各地を巡りデータベースを構築するための資料を収集する事です。現地投下に際してインベントリ・リングをお渡しします。このリングを経由して現地での収集品をお送りいただくことでデータの分析、登録ができますのでご活用ください」  つらつらと淀みなく読み上げられる言葉の羅列に目眩がした。  言っていることの半分も理解できず「ちょっと」「あの」と言葉を遮ろうと試みるも見事に無視される。  目を白黒させるわたしを他所に意味不明な言葉の奔流はさらに続けられた。 「オルドまでの移動時間で現地環境適応のための生体再組成を行います。現在実行中で、先程休眠中と言ったのはこのためです。現地についての基本的な知識もインストールされますので言語などの心配は必要ありません。    現地では消息不明の少女セトア・コオの戸籍を使用してください。戸籍といっても情報伝達が未熟な惑星なので、これといった行動の制限はありません。ただし、遺体から採取したDNAを用いて再組成を行うため、記憶の移植は不可能となりますので知人などには注意が必要です。     また、任務において一切の生命の保証は致しませんのでご了承ください。以上です」  やっと止まったイコナの説明は全く要領を得ないもので。 「……は? あの、意味がわからないんですが……」  ようやっとそれだけを伝えるとイコナは途端、それまでの天使の如き微笑みを引っ込め、わざとらしいほどに盛大な溜息を吐き、綺麗な顔を歪め侮蔑の眼差しをこちらに向けてきた。 「これだからサルは……」  そこでわたしの意識はブツりと途切れた。
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