第1章 邂逅

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第2話 佐伯花子の人生  佐伯 花子の生きた十四年は他人のものだった。  物心ついた頃から、両親にお前は姉の奴隷だと言われ続けてきたのだ。  蝶よ花よと可愛がられ、姫と呼ばれ、欲しいものは何でも与えられていた姉。その姉が負うであろう苦労を、生涯肩代わりするための生贄であり奴隷だと。  早朝から新聞配達のバイトに勤しみ、炊事洗濯を済ませ、学校が終わったら急いで帰ると掃除に洗濯の取り込み、買い物に行って食事の用意に後片付け。家族が団欒を過ごしている間も、家事に追われていた。勿論、放課後に友達と遊んだ記憶などない。  家事が終われば、将来良い仕事をして姉に貢ぐためにと夜遅くまで勉強を強いられ、話し相手になるために姉が興味を持った所謂オタクと言われる分野の知識も詰め込まれた。詳しすぎても癇癪を起こすので匙加減が難しいのだけれど。  そして少しでもミスをすると暴力を振るわれるのだ。  飾り付けのトマトが他より一つ少ないだの、ジュースを飲もうとしたらコップに水の跡が付いていただの、そんな些細な事で容赦なく殴られていた。おやつの買い足しを忘れただけで、小一時間蹴られ続けたこともある。  最初の頃はどの家庭でもこういうものだと思っていた。  しかし、友達に接するうち、あるいは勉強の最中に調べ物でネットや書物に触れる時、オタク知識を仕入れる時など追々にして自分の家族が異常なのだと気付いていった。両親の失敗を挙げるとすれば、知識を自由に得られる環境を作ったことだろう。花子はそんな血の繋がりさえ疑わしい家族に早々に見切りをつけ、逃げ出す算段を立て始めていた。  そんな中、あの青年に出会ったのである。  もしかしたら、家に残った方が幸せだったかも知れないと思う日が来ようとも思わずに。
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