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卒業式
桜が咲き始める今日。
俺、海崎圭は、四年間在籍した大学を卒業した。
大学の仲間と卒業式の終わりにどんちゃん騒ぎした後、原一颯さんからLINEが入っていた。
『卒業おめでとう。たまたま、近くに来たんだけど、会える?友達と会ってるなら、いいんだけど」
うそだ。俺に逢いに来たくせに。
俺が気を遣わないように言ったことは分かる。
一颯さんのそういうところが、焦れったくて好き。
「大丈夫だよ。今、友達と飲み終わった所」
すぐ、そう返事をした。
一颯さんは待ち合わせ場所に車にすぐ乗ってやってきた。
「圭。お疲れさま。乗って」
俺は、車に乗り込んだ。
「一颯さんが運転する車ドキドキするな」
「え、乗せるの初めてだっけ?」
「うん。初めてだよ。
結局、一颯さんが引越してから会うのも初めてだよ…」
目元を赤く染めながら言った。
一颯さんが地方へ引っ越す日に、俺たちは思いを伝え合ったのが、2週間前。
あれから、毎日LINE・電話はしてたものの、直接会うのは今日が初めてだった。
気恥ずかしくて、顔をうまく見られない。
「…ったく、そんなかわいいこと言うなよ」
一颯さんがボソッ呟いた。
「…そういえば、お花をもらったよ」
甘い雰囲気が耐えられなくなり話題を変えたくて、自身のスーツの胸ポケットに刺さった黄色の花を見つめて言った。
「いいじゃん。俺も卒業式の時、花貰ったな。
てか、圭が大学卒業か…」
しみじみして言った。
「いろんなことがあった学生生活だったな」
本当にいろんなことがあった。
俺が卒業する大学に行くことを決めたのも、あと少しで高校三年生になる春のそよ風が吹く頃だった─── 。
「圭、志望校どこにするんだ?」
机の上に置いた、模試の志望校欄を見つめながら、一颯さんが言う。
「まだ、決めてなくて」
「俺のところにしたらいいじゃん」
何でもないように言う。
「一颯さんの所は俺の偏差値じゃ、足りないんだよ」
俺は諦めたような表情になった。
実際、一颯の大学はこの地域で、難関大学を示す大学のグループの中に入っていた。
「一緒の大学に行こうぜ。圭なら、行ける。」
その言葉で、俺は一颯さんと同じ大学を目指すことにした。我ながら、現金な奴だと思う。
でも、“一颯さんと同じ大学に通える”というだけで、俺には十分な志望理由になった。
それから、高校三年生になり、必死に勉強した。
『お前には、ここは難しいんじゃないか。
記念受験するならいいけど』
夏の三者面談では、担任から呆れた顔で言われた。
ムカついた。担任にも、そう言われてしまう自分の成績の低さに。
また、両親に浪人は辞めてくれと言われていたため、失敗する訳にはいかなかった。
周りは、指定校で決まっている者が増えていた。
つまり、追い込まれていた。
自宅の勉強机で頭をうつ伏せて項垂れていると、
一颯さんが部屋にやってきた。
今日は、家庭教師の日だった。
「圭、大丈夫か」
心配そうにこちらを覗き込んでくる。
─── か、顔が近い。
「うん。大丈夫」
何でもないように、手で乱れた前髪を素早く直す。
「あんま、根詰めんなよ。圭、頑張りすぎるからな」
口元をニカッと笑って、俺の頭をわしわしとうごかすから、ぐちゃぐちゃになった。
何気ない言動1つで嬉しかった。
俺の受験期は、高校三年生の三月までかかった。
何とか補欠合格で滑り込む事ができた。
姉ちゃんも一颯さん、両親も皆喜んでくれた。
俺自身も一颯さんと同じ大学に通えることに喜びを感じていた。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
大学に入学して、一ヶ月が経った頃。
廊下でリクルートスーツに身を包んだ一颯さんを見かけた。
「一颯さん!」
「お、圭か。もう、大学には慣れたか?」
「うん。友達も出来たし、何とか履修登録も出来たよ」
「良かった良かった。…あ、もうこんな時間だ。
ごめんな。これから、面接があるから、もう行くわ」
「..そうなんだ。ううん。頑張ってね」
「おう」
一颯さんは急いで行ってしまった。
─── もう、少し話をしたかったな。
大学四年生のこの頃は、就活、ゼミ、バイトで忙しいことを俺は分かってなかった。
同じ大学に通ったら、会えると思ってたのに、全然会えなかった。会えても、忙しそうで、ろくに話も出来なかった。
ただ、就活はいつかは終わる。一颯さんの進路が決まったら、会えるようになるのではないかと淡い夢を抱いていた俺の思いは呆気なく打ち砕かれた。
姉ちゃんと一颯さんが付き合い始めたのだ。
姉ちゃんから一颯さんの就活先が決まったと聞き、そろそろお祝いを兼ねて、食事にでも誘おうかなと思っていた矢先のこと。
7月の蝉が鳴り響く季節。
「私、一颯と付き合い始めたから」
頭が真っ白になった。
イブキトツキアイハジメタ?
この時のことをあまり覚えていない。
作った笑顔で辛うじで「おめでとう。一颯さんなら安心だよ。姉ちゃんには勿体ないなぁ」と言ったような気がする。
それから、よく家に一颯さんが遊びに来るようになった。
寄り添うふたりを見るのが辛くなった俺は、夏休みに一人暮らしを始めた。
「一颯」「千聖」と呼び合うふたりを見る度に、胸の奥から黒いドロドロとしたものが湧き上がって、そんな自分に自己嫌悪した。
「圭の新しい一人暮らしの部屋さ、花火が見えるんじゃない?当日、遊びに行ってもいい?」
そう、姉ちゃんから言われた時は、心臓が止まるかと思った。俺の浅はかな思いがバレてるんじゃないかと。
「…けい、圭、どうした?」
一颯さんが俺を呼ぶ声で、現実に引き戻された。
「ううん。大学生生活、いろんなことがあったなって思って、思い出してた」
「学生の数年は、大人になってからよりも大きいよな」
「俺は楽しかったな」
心からの言葉だった。
授業、バイト、就活、そして恋愛。
濃い学生生活だった。
「圭が楽しく過ごせたみたいでよかったよ…。
これからどうする…?」
なんとも言えない、二人だけの空気が流れる。
「...ふ、二人っきりになりたい...」
「…分かった」
「…んっ」
あれから、二人で近くのラブホテルに入った。
部屋に入った瞬間、一颯さんから口づけられた。
「圭...好き…」
いっそう、口づけが深くなる。
「...ん、んんっ」
ぷはっと、唇が離れる。
「苦しかった?」
「慣れてなくて…」
高校二年生で一颯さんを好きになったため、圭にはキスを含め、他人と肌を重ねる経験がなかった。
「…可愛い」
「なん─── 」
“なんでだよ”と言いかけた俺の口を塞ぐように、再びくちづけられた。圭の緊張を溶かすような優しいキスだった。
─── 恥ずかしい。でも、嬉しい。
「...一颯さん!!シ、シャワーだけ浴びさせて」
「このままでもいいよ」
「良くない!」
一緒に入ろうとする一颯さんをなんとか止めて、先に一人でシャワーを浴びた。
ホテルのバスローブを着て、ベッドに腰を降ろして待つこの時間が恥ずかしくて、耐えられない。
一颯さんとこの先まで、進みたい。けど、逃げたい。
せめぎ合うふたつの衝動に悩み、身を硬くしていた。
「お待たせ。」
シャワーから来た一颯さんは、腰にバスタオルを巻くだけの恰好だった。直視できない。
「一颯さん、バスローブじゃないの?」
「どうせ、脱ぐんだし」
ゆっくりと、近づいてきてキスをした。
何度も何度もキスを重ねて、互いの唇を吸いながら、キスの合間に視線を見交わす。繰り返すたびに徐々に深まり、気がついた時には舌を誘い出されていた。緩く吸われて、くぐもった声が出てしまう。
「圭…触っても、いい?」
手が俺の下の方に触れる。
「いいよ...」
一颯さんの手が俺のバスローブの中に入ってくる。そこは、誰にも触れさせたことがない。
「…あっ、ああ」
「…圭。大丈夫か…」
「うん」
そう答えるので、精一杯だった。
張りつめたものを上下に扱う。
荒い息遣い、余裕のない目、全てが見たことのない一颯さんに心が乱舞する。
くちゅりという淫靡な音が部屋に響く。
段々と、高まりが近いことをあらわしていた。
「っあ、あ、いく…」
張りつめたものがはじけた。
一颯さんの指が、誰も触れたことない俺の窄まりに触れる。ゆっくり入ってくる感覚に息をつめた。
「っん」
何とも言えない異物感と痛みにすくむ。
「ごめんな、辛かったら止めるから」
本当に俺が嫌だって言ったら、止めるみたいな言い方する。
「ここで止めないでよ、だ、大丈夫だから。…続けて」
潤滑剤をつぎ足され、ときおり弱い部分をかすめられる。
俺の中をかき混ぜてくる。
やがて、指がある場所にあたる。今まで、感じたことの無い快感が走る。
「ひ、ひゃ、い、いやだぁ、ここ怖い」
「どうしたの?ここ、気持ちいいの」
更に、感じるところに執拗に触れてくる。
「あ、あ、ああ」
感じ過ぎてやばい。息が乱れていく。
一颯さんの目は、ほんのり目元が染まっていて、欲情で濡れている。
「ほぐさないと、圭が辛いから」
いつまで、この快感は続くのだろう。
「…もう、一颯さん入れて」
「でも、まだ痛いよ」
「大丈夫だから…」
もう、限界だった。早く、ひとつになりたい。
俺の中からようやく指が抜けると、正面から代わりにひどくはりつめたものがあてがわれる。
押し入られる感覚に、思わず声がもれる。
ゆっくりと進んでいくが、先程の痛みはあまりない。
それほど、蕩かされたのだ。短い息継ぎのような息が続く。奥に感じる。
「...ん、くっ」
「...全部入った。夢みたいだ。圭、好き」
吐息混じりに眉間を寄せた一颯さんの目は潤んでいた。
つられて涙が出そうになった。思いが募る。
夢なのかな。
「…ん、ああ、あ、い、一颯さん、おれも好き…」
そういうのが精一杯だった。
俺の首筋に、痛みが走る。
「...う、動いていいよ」
俺の言葉を合図に、緩やかに揺さぶられる。
「っん、あ、ああ、あああ」
腰を引いたかと思うと、次の瞬間入ってくる
抜き差しが、たまらなく感じる。
「っんん、あ─── 」
頭の芯まで蕩けそうだ。
苦しいのに、幸福感に溢れていた。
そろそろと高みが近づいてくる。
「…圭、もういく……っ」
「おれも...」
「うっ……、んうっ」
激しく揺さぶられる。一颯さんが苦しそうに、眉根がよせる。次の瞬間、じんわり熱いものが自分の奥に広がる。中に出されたのだ。
「……熱いよ……」
出された衝撃で、反り返った自身が限界を迎えた。
「っん、ああ、ああ、んあっ」
今までにない快楽に、何も考えられない。
2人とも、達した。
幸せすぎる。
繋がったまま、放ったものを塗り込めるように、再び中を擦られる。
「……ん、ちょっ……あ、あん、いったばっか」
「足りないよ。まだ」
一颯さんの自身はいったばっかりなのに、萎えるどころか張りつめていた。目元も獲物を狙うハンターのようにぎらついている。
今夜は長くなりそうだ。
気持ち良すぎて、理性が飛んで、ひたすら喘いだ。
そのまま、お互い、今までの片思いの期間を埋めるように抱き合い、そのまま夜に溶けていった。
いつの間に、意識を手離していて、次に目が覚めた時には、一颯さんの腕の中だった。
一颯さんはすやすやと寝ている。
急に、昨日の羞恥の出来事が走馬灯のように思い出されて、顔が熱くなる。
遂に、やっちゃったんだ。
目が覚めたら、なんて顔をしようか悩んでいると、
一颯さんが目を覚ました。
「おはよう。どうしたの、そんな顔を七変化させて。もしかして、恥ずかしい?」
意地悪そうにこっちを見て言う。
何も言えずに、顔を俯いたのが、肯定になってしまった。
「必死で可愛かったな、圭」
「…必死になって悪かったな」
頬を膨らませて、拗ねた表情をみせた。圭にとっては、初めてで必死で正直、あまり記憶が無い。
「嘘だよ。そういう意味じゃないよ。圭の初めてが俺で、すごく嬉しい」
思わず口元が緩んで、耳たぶまで赤く染まった。
「ねぇ、来年の夏祭りは二人で行こうよ。
今度はベランダじゃなくて、会場で」
「人混みやだ〜」
「また、そんなこと言う。
きっと、俺となら楽しいよ。圭の浴衣姿みたいな」
そんなこと言われたら、行きたくなるじゃないか。
俺と一颯さんで、これから思い出をたくさん作っていきたい。
一颯さんとなら、大丈夫。
感傷に浸っていると、一颯さんがボソッと呟いた。
「…あわよくば、浴衣エッチとかしたいな…」
「変態ー!!」
この後、俺は丸一日、一颯さんと口をきかなかった。
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