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天井高く伸びる窓から青々とした空が見える。
ポップな店舗の脇に青く光る掲示板を見とめる。出発ゲートはB35。表示によれば、ここから歩いて約十分。搭乗はもう開始している。
色鮮やかなチョコレート・ボールで溢れたショップの横を通り過ぎ、Bの掲示を追って走った。息せき切って辿り着いたB35ゲートでは、もう乗客が一人ずつ、搭乗ゲートの先へ吸い込まれていっている。
走ってずり落ちたボストン・バッグを肩にかけ直し、ショルダー・バッグからトラベル・パスケースを取り出す。搭乗券を出すのと重なって、向こうの教授の推薦状の写しが引きずり出た。
——それじゃあ、幸運を。あなたがここに来るのを、楽しみに待っているわ。
向こうに雪が舞う窓を後ろに、真っ直ぐに手を差し出した教授の笑顔が頭に焼き付く。自分が出した掌は、強く強く、握り返された。
——そうだ。
推薦状に記された、成果への期待と博士号取得の約束。プリントアウトされた無機質な字体が埋め尽くす中、教授の手書きサインと大学印が堂々と浮かび上がる。
——一人前になって日本に帰るために、私は行くんだ。
列の最後尾でゲートをくぐる。真夏なのに冷たい外気が、頭にキンと気持ちがいい。
FLUG NACH IHR ZUKUNFT.
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