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「桜!」 ゴールデンウィーク最終日。15時半を過ぎた塾の自習室で桜は声をかけられた。視線を上げたら、亜貴が自分に手を振っていた。今日は特に自習室で一緒に勉強しようと約束はしていなかった。 「隣いい?」 「もちろん。」 亜貴は背負っていたリュックサックを下ろしてから、桜の隣に座った。 「今日は来ないのかと思ってた。」 桜はこの後、16時から講義があったが、亜貴は今日は講義がなかったはずだ。 「受験生だからね、俺は。」 亜貴は苦笑して自習用の長机にノートと赤本を置いた。亜貴の持っている赤本は桜では口に出すのも悍ましい大学だ。知らない人はいないのではないかと言う有名私立大学。亜貴の両親がそこの卒業生で一人息子にも絶対にそこに行って欲しいと望んでいるのだと、前に亜貴に教えてもらったことがある。 「でも、ここを卒業したら俺はもう自由だよ。」と、亜貴は言う。ずっとギターを弾くのだと。 「桜は順調?勉強。」 「うーん……上がったり下がったり。あ、でもこの間、悩んでた問題の答えが分かったの。最初から最後まで自分て解けたの。」 先生にも菫ちゃんにも聞かず。ほんの少しかもしれないけど、力を付けているのかもと思いたい。 「桜、頑張ってるもんね。あ、そうだ。桜さ、今日の講義の後、時間ある?」 「うん、大丈夫。」 講義は18時に終わる。その後は特に予定はないが、家に帰ろうと思っていた。
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