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第17話
「え? 何が?」
「お前……弟、詩雨のこと、好きなんじゃないのか?」
俺の心のうちにずっとあった疑問。それをやっと口にする。
「好きだよぉ。詩雨くんは、僕を助けてくれた天使だからね。だから、何でもしてあげたかったし、守ってあげたかった。いつでも傍に置いておきたかった」
これは、俺が訊いている意味での答えなのか、判りかねた。
「他の男に取られてもいいのか?」
「どういうこと?」
「だから……」
男同士の兄弟の関係で、はっきり言葉にするのが憚れるような気がして ──── 。
俺は天音の腰に手を回し、ぐっと抱き寄せた。その首筋に、ちゅっとキスをする。
そして耳許で囁く。
「こういう意味で好きなのか、てこと」
くすくすと笑う声が聞こえ、俺は天音の顔を見た。
「違うよ。そういうんじゃない、四季も解ってるでしょ」
彼の両腕が俺の首の後ろに回る。天音の顔が近づいくる。
「詩雨くんに対して肉欲とかないよ」
──── ぼかして訊いてるのに、はっきり言うなよ。
実際は別として。まるで無縁そうな綺麗な顔でそういう言葉を吐くので、違和感が半端ない。
「本当はまっさらなままで、大事に大事にしまっておきたかった。でも、詩雨くんがおとなになった時その気持ちも崩れてしまったんだよ。だから、あとはあのコの幸せを願うだけ ── アイツが、もし詩雨くんを傷つけたりしたら、許さない」
天音はいつもの何を考えているのか解らない笑みを浮かべている。それなのに、その茶色い瞳だけが、酷く哀しそうに濡れていた。
首の後ろに回された腕に軽く力を込められ、引き寄せられる。
天音からの甘いくちづけに、俺は応えた。
**
俺たちの関係に名前をつけるとしたらなんだろう。
セフレか……?
でも、俺には愛がある。天音になかったとしても。
だから、そうは言いたくはない。
抱えきれない苦しさを紛らわせる為に俺を求める。
いいだろう。それに応え続けてやろう。
天音が弟を、天使だ! 神だ! と言って大事にしていたように、俺の天使は、あの時からずっと天音だ。
そして、それは自分でも気がつかないうちに欲を孕んだ愛に変わった。
俺は天音を愛してることを、これから先も伝えることはないだろう。伝えれば、恐らくこの関係は崩れてしまう。
天音の傍にいる為に、俺は言わない。
そうやって、俺たちは一生共存していくんだ。
そんな予感がする。
俺は ── 一生愛し続ける。
生身の天音も。天使のような天音も。
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