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第7話
出逢ってから二十八年。
高等部を卒業し、大学が別れ、実際に会うことはかなり少なくなった。しかし、俺たちの関係はそれ程変わらない。
卒業してから十七年もの間、弟のことを逐一報告してくる。それまでと同じで、特に返事も求められない。
ガラケーがスマートフォンに変わり、メールがLINEに変わっても毎日のように連絡してくる。
“聖愛の森”で弟と一緒にいたあの男の子のこと、俺自身には何も関係ないのにくわしくなってしまった。
“冬馬”という名であること。家族ぐるみのつき合いで、以前は夏休みに一緒に別荘で過ごしていたこと。
“詩雨”と“冬馬”の二人の関係性。新たな少年の登場。その少年が現れたから、天音の“冬馬”への当たりは強くなった。
弟が楽団も音楽院も辞め、家から聖愛の寮に移った時には、開く度に膨大なメールの数々。夜遅くの電話。
彼の嘆きが、怒涛のように俺に襲いかかった。
こんなことを話せる相手は、幼い頃からずっと話を聞いている俺以外にはいないのだろう。
いや、話されても困るよね?
何の関係もない弟の話。色恋やその顛末。しかも相手が同性とか。
気持ち悪いくらいに弟を溺愛する柑柰天音。本人が有名人なだけに、イメージダウンもいいとこ。
俺だって困ってるよ? 弟の話ばかり。長い間聞かされ続けて。
それでも俺は黙って聞いてやる。アイツも外面がいいだけに、いろいろ溜まってるんだろうから。
でも、俺も内心もやもやを感じているんだ。
何か解らないもやもやは長い間に次第に広がっている。
それが何なのか。俺はいずれ知ることになる。
**
十二月二十五日。
俺はまだ病院にいた。クリスマスだからといって、そんなものは患者には何の関係もない。逆にこういう世間がわさわさとしている時に限って急患も多いものだ。
クリスマスを喜ぶ子どもでもないし、一緒に過ごしたい彼女もいない。特に浮き立つこともない。
そんなに日の夜だ。
天音から連絡があり、一人の男が運ばれて来た。救急車ではなく、直接天音の車で。
あの弟も一緒に。
そして、運ばれて来た男にも見覚えがあった。
そう、あれはホテルを貸し切っての、聖愛のクリスマスパーティーの時 ──── 。
OBも参加できるパーティーに、なんとなく天音もいるような気がして参加した。思った通り天音に出会い ── そして、あの事件に巻き込まれた。
“冬馬”に殴られ気を失った男。それから、“冬馬”が“詩雨”よりも大事にしていると思われる少年。
俺は天音を手伝い、かすり傷の“冬馬”を含めた三人を桂川医院に運んだ。
その時俺は研修医一年目。研修先外では何もできず、ただ運び父と兄に託した。
またその男が運ばれてきた。しかもあの時以上の怪我を負っている。
今回は俺も兄と共にその処置にあたった。出血は多いものの急所は外れ、命の別状はない。
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