優しい観客と記憶の恋音

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かつて私は後輩に言ったなあ。あの子は確か、()()やったっけ、何や後ろ向きになり過ぎてて放っておけなかったんよね。 『あんな、人は過去のことでしか泣けへんのや。未来を悲観して泣くんは、その未来が悲しいんやない。今が苦しいから、もしくは今が幸せやから、そのどっちも、今と過去を基準にして未来が辛いと思うんよ。  今この瞬間も一秒後には過去になる。過去の自分を悔やんだり憂えたり、だからこの先も辛いしかない思て泣く。過去も今も幸せいっぱいの人には希望しかない。未来を悲観するんなら、過ぎ去った過去はどうしようもないんやから、今を充実させたらええ。今が充実しとったら、希望さんが花束抱えて寄ってくる。  今が辛いて思うなら、ダメで元々、やれることやってみ。どうせダメや思うのは自由やけど、どうせダメなら何やっても無駄じゃなくて、どうせダメなんやから、普段やらんことやってみよ。結果ダメでも最初から分かってたことやん。あーやっぱダメやった、でも新しいことできたわって笑お。ダメやったけど次は上手くやれる準備できたわって笑お。そうやって笑顔にしとったら、(なつ)こい希望さんがホイホイ寄ってくるで』 私は中学二年生、同輩にも後輩にも慕われ、とても充実しとった。 恋愛には興味がなかった。オトンの都合でいつ引っ越すか知れん身で、特定の相手を見つけたって仕方ない。遠距離恋愛なんて続かへんし、そんなことで心乱すぐらいなら、みんなと仲良うしとった方がよっぽど良かった。 将来の夢は弁護士になること。オトンの影響もあって、交通遺児や重度の障害を負った子のために、または大切な家族を亡くした人のために戦う弁護士になりたい思うとった。
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