優しい観客と記憶の恋音

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演劇部や生徒会は、弁護士としてのスキルアップに必要やった。 学校での日々はすべて研鑽や。 私の中に恋愛が入り込む要素はどこにもなかった。 けどこれは方便で、実際は憧れてる人がおった。 それは私の前に生徒会長を務めた()(がわ)(そう)()先輩。 当時上級生からも一目置かれてた私を唯一「(あさ)()」と呼んだ人。 オトン以外に、私を「麻美」と呼び捨てた男の人は、後にも先にも先輩だけやった。 私は内緒にしとったが、密かに、ホンマ密かに、早馬先輩に憧れとったんや。 乙女ゲームなんかによう出てくる絵に()いたような上級生。容姿端麗で頭脳明晰、おまけにクールで所作一つ一つがサマになる。女子たちはみんな彼に夢中やった。告って散った話なんか、そこら辺の誰かに聞けばすぐ出てくる。けど早馬先輩は女子に対して極端にドライで、お近づきになれる子はおらんかった。 私だけが名前で呼ばれてた。 「麻美」って。 それがどれだけ嬉しいことか、そしてどれだけ妬まれてたか分からへん。けど私もそれなりに上手く振る舞い、男子にも女子にも好かれとったから、表立っていじめられるようなことは一度もなかった。
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