優しい観客と記憶の恋音

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おずおず視線を上げると、先輩は目を潤ませるようにして私を見とる。今にも涙が零れそうで、何や急に不安になった。そこへ先輩が言葉を紡ぐ。 『麻美の言葉には力がある。でもそのせいで、おまえには寄りかかれる場所がない。皆がおまえを頼ってしまうから、おまえも頑張り過ぎなきゃいけない。その辛さは、おまえが選ばれた者だから味わう苦悩だろう』 私は言葉が出えへんかった。何を言いだすかと思えば⋯、と考えた瞬間、私の方が泣けてきた。けど涙なんか出したらアカンのや。私は強い女を()らなアカンのやから。そしたら追い打ちをかけるように先輩が言うた。 『麻美、俺がおまえの泣ける場所になってやる。弱音を吐ける場所になってやる。おまえが人を守るなら、俺がおまえを守ってやる。これは本心の告白だ。ずっとおまえに惹かれていた。俺を信じてくれるなら、この気持ちを受け取ってほしい』 まさか、告られるなんて思ってなかった。 早馬先輩が私を好き──。 めっちゃ嬉しくて、けど、同時に悲しゅうなった。 『何で私が先輩を信じないと思うん? 先輩、自分のこと信じられへんの?』 いつだって自信家のくせに、こんなときだけ弱気になるのはおかしいやん。 『ああ。俺は自分を信じられない。変なプライドが邪魔して、人当たりのいい嘘をつく嘘つきだ。自信は自分を信じられなきゃ本物にはならない。自分が嘘つきだと思ってたら、自信なんか持てないよ』
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