優しい観客と記憶の恋音

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『ほな、いつもの公園行こ。追いかけっこや。私を捕まえられたら、私からキスしてあげる。ほらほら、早く。せーの、ドン!』 私はくるっと回転して、ダッと駆け出した。 まさかそこに、悪魔がいるとは思わずに。 『麻美っ、危ないっ!!』 グイッと強く先輩に手を引かれ、その後、ザッともドッとも区別つかない音が聞こえた。 歩道に放られた私は肩と肘を打ち、その痛みを堪えて音のした方を見る。 そこには、サングラスにマスク姿のトレンチコートを着た男が立っとった。 握られている赤く濡れた刺身包丁。 早馬先輩が私に振り返り、安堵したような優しい顔で──地面にくず折れた。 『早馬せんぱあーいっ!!!!』
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