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彼に問うも、直後に「いやっ」と首を振り、
「その、答えたくなかったら、大丈夫です! 取材の範囲を超えてる気がするし」
「……好きだったやつが、死んだからだ」
聞いた刹那、呼吸が止まる。その拍子に膝の上に置いていた写真をバラバラと床に落としてしまい、あわあわと拾い上げながら、
「え、えと、彼女さん……とか、ですか」
「いや、男だ」
拾い上げた写真が手から溢れ、再び床にばら撒く。「へ……」と声を漏らして麗を見上げる。
「男……? もしかして、ホモ……」
失礼な言葉が出てしまい口を塞いだ。とっさに謝ろうとしたが、
「そうだ。理解が及ばないのも分かる。気持ち悪く思ったなら、すまん」
「い……いやいやいやっ! その……すみません。ちょっと意外、だったので……それに」
写真を今度こそ拾い集めて立ち上がり、テーブルに置く。麗の淡白な表情に、少しだけ心臓が鳴っているのが分かる。
(誤魔化さないんだ。……オレみたいに)
椅子に座り、目を伏せた。麗の横顔をチラリと見る。目元は落ち窪み不健康そうではあるものの、顔立ちそのものは美形だ。学生の頃はモテただろうな、なんて思う。
(あー分かった、この感じ。……懐かしいって思ったのも)
記憶の奥にしまっていた声が聞こえる。
『アキ』と名前を呼ぶ声が。
「……日色さん?」
麗に声をかけられ、はたと顔を上げる。
彼はこちらを覗き込むように虚ろな目で、
「大丈夫か」
「あっ、すみません! えぇっと、その、実はオレも、男が好き……っていうか黒月さん、顔近っ……」
目を逸らすと「あぁすまん」と顔を遠ざける麗。近くで見ると顔綺麗だなぁイケメンだなぁなんて思ってしまった自分の顔を叩きたくなる。
(オレだって仕事なんだから早く終わらせたらいいのに、もう色々聞けたのに、それでも黒月さんとずっと話してて……分かってる)
――――『なぁアキ』
蘇る、懐かしい声。
もう何年も聞けていない声。
(そうだ。黒月さんは、兄ちゃんに似てる。……あの頃の、兄ちゃんに)
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