戻ってきた剣の女神

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恐らく前日までのクラティナとは思えない言動を繰り返す女と団員との一戦に、その場の誰もが固唾を飲む。粗暴な態度とは違い綺麗な構えに思わず「おお」と感心しかけたところで、相手の足が先に動いた。 躊躇わず踏み込んでくるその度胸と振りの力強さに並々ならぬ自信を感じる。これは同年代で相手になる者は居ないだろうな。 「…っ」 まずは軽く一太刀いなしてみて、ルークが目を見張る。 クラティナは当然その小さな驚きを見逃さなかった。 相手が女だからと舐めてかかったり手加減をするタイプには見えないので、こちらも全力でぶつかれるというものだろう。 それならば隙を見逃すのは失礼にあたる。 「___は」 懐に大きく踏み込み最小限の動きで斬りかかる。喉元寸前で剣を止めれば短く声が降ってきて、その顔は困惑を隠しきれていなかった。 頭は混乱していても、身体は負けを認め動きを止めている。 潔いところも好みだ。クラティナは身体を引き軽くぽんと肩を叩く。 「私の勝ちだな」 一瞬で終わった勝負に、場は凍りついた様にシンと静まり返っている。今はまだクラティナの手の内が明かされていなかったのですぐに決着がついたが、次からはそうもいかないだろう。しかしそれにしても慣れ親しんだ筈の剣が重たく感じる。周りを見回してみれば驚き、疑惑、困惑、様々な視線がクラティナを射抜く。現実に戻すため軽く一度手を叩いて、見世物は終わりだと声を張った。 「さ、訓練に戻ってくれ」 恐らくクラティナの言葉だけではその場全員は動かないだろうから、オスカーに軽く目線を送る。彼は表情を変えず指揮を引き取り、身を翻して団員達に持ち場に戻るよう命令を下した。そして時間に残されたみたく呆然と動かないルークと第二騎士団の面々にどうしたもんかと頭を悩ませ、結局ここもアレンに任せる事にした。実力を見せたとて、今までの行いが水に流れる訳もなし。突然クラティナに従えと言われてもそうはいかないだろうから。 指揮を取り始めたアレンに背を向け、未だ剣を持つ手を見つめるルークを引き、段差に座らせる。黙ったままのルークは案外大人しかったので、クラティナもこれ幸いと隊服を捲し上げ左腕を露出させる。 「酷いな。手当ての才能は無さそうだ」 打撲の痕か、肘近くが紫色に腫れている。お粗末に巻かれた包帯を解き、近くの団員に応急処置出来る物を持ってきてくれと頼めば、打って変わってしおらしくなったルークがぽつりと呟く。 「……左利き、なんすよ」 「ああ、確かに。言われればそうか」 素直に口をきいてくれるのか。若干驚きつつ、良い変化である事を願う。手際良く手当しつつ様子を伺えば、不思議そうに二つの瞳がこちらをじっと観察していた。
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