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クラティナのせいでかなり大きな騒動はあったものの、合同訓練はつつがなく終了した。一応自分のせいで始めるのが遅くなってしまったのだし、と謝罪を含め話しかけようとオスカーに近付いたところ、目線もくれず背中を向けてきやがった。唖然と口を開けるクラティナをよそにそのまま彼は何も見ていなかったかのようにスタスタと歩きだし、益々好感度は下がるばかりである。ストーキングされていたとはいえ、騎士団長ともあろう大の大人がここまで露骨に嫌な態度を取ってくるのは如何なものなのか。
それほどの事を美帆が仕出かしたとは考えにくいが…。
とにかく、あの男にはこちらから接触しない方が良いらしい。どう見ても相思相愛では無いし、それならば今までの反省も含めて話しかけない方がお互いのためである。
クラティナもオスカーとは個人的に気が合わなそうだし。
閉会の儀を終え自分の部屋に戻ろうとしたところ、アレンに呼び止められる。どうやら記憶喪失だということを疑いもせず素直に信じきっているようで、生活するのに不便だろうからと周りを案内してくれるらしい。
クラティナは有難くその申し出を受けたのだが、この男は先程のプロポーズまがいの発言をした事実を綺麗さっぱり忘れているのだろうか。
「ここが食堂です。あちらの方へ少し歩けば厩舎があります」
「第一騎士団長サマもここでお食事を?」
「……いえ、執務室でお一人で食べられているかと」
「そうか」
「気になります、か」
「勘違いしないでくれ。食事の場でも顔を合わせなくて済むと小躍りしたいくらいだ」
「小躍り……ふっ」
アレンは小さく吹き出して、すぐにこほんと咳払いする。
どこまでも真面目な青年らしい。
「あとは、月に一度外出可能な日があります。この日は無礼講のようなもので、多くの団員が飲みに出歩くかと」
「そうか。アレン、お前は?」
「俺__私は、特に。たまにルークに付き合ったりはしますが…」
「華街には行かないのか?」
「!!」
華街とは、所謂女が売られる街である。
王都から離れてはいるが、その道の店の集まりで栄えている立派な歓楽街だ。普段女っ気の無い騎士達が月に一度外出するのであれば、そこ一択だろうと勝手に思ってしまったのだが。
「いきませ、ん……」
顔を真っ赤にし俯くアレンを見ていると、酷く弄りたい気持ちでいっぱいになる。なんとも可愛らしい男だ。
「性欲の発散も仕事の内だぞ」
「だ、団長!かっ…からかわないで、下さい……」
「はは。悪い」
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