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一応クラティナの自室である部屋に戻った瞬間、ガチャリと音を立て鍵を閉め、一気に全ての服を脱ぎ捨てる。全く窮屈で仕方ない。
「はぁ……」
どっと疲れが押し寄せてきた。しかしクラティナ自身の生活はまだ始まったばかりである。こきり、と首を鳴らしてベッドから立ち上がる。ひとまず問題の日記と睨めっこでもしようか。何となくこの日記を見れば全て分かる気がしてならないのは、美帆はあちらの世界で随分メモ魔だったからだ。過去のノートを見てみると可愛らしい付箋と共にオリジナルのキャラクターを添え、分かりやすく要約していた。しかしその努力も虚しくあまり頭は良くなかったらしいが。
「鍵か…」
こんなちゃちなものは壊せばいい。しかしそうしなかったのは、もし万が一美帆がこちらの世界に戻ってきてしまった時に残念がるだろうかと考えてしまったからだ。妙に嫌な癖ではある。本当の自分の身体に戻ったのに、またあちらの世界にいつ行ってしまうか分からないと、常々戦々恐々としなくてはいけないなんて。
引き出しを開き漁っていれば、鍵はすぐに見つかった。小さくて可愛らしい玩具みたいな鍵だ。これで漸く日記が拝める。
「ふう……よし」
再度ベッドに腰を沈め、息を深く吐いてからページをめくる。
___やっと記録できるものが手に入ったから、これからはここに思ったことぜんぶ書いてく。鍵は引き出しの右奥(忘れないように!)
見覚えがある、確かにこれは美帆の字だ。どうやらどうして今こうなっているのかは書かれていないらしい。恐らく騎士になってから落ち着いて記録をとり始めたのだろう。しかし肝心な鍵の場所を日記に記録しておいては無くした時何の意味もないぞ、美帆。
___はぁぁぁあ今日もおすかー様がかっこよすぎたぁぁああ...
次いで二行目から早くも雰囲気がおかしくなっていく。
___今日も頑張って話しかけようとしたけど全然だめ...おすかー様は朝から晩までお仕事と訓練でご飯もお部屋で食べてるからお顔が見れない...かっこいい..いつかあの綺麗な体に触って筋肉もふもふさせてもらうのが夢!ていうか結婚したい!一生一緒にいたい!日本帰りたくない!
「……………こ、これは……」
衝撃的な事実かもしれない。まさか、元の世界に戻りたくないほどオスカーに惚れていたとは。まあ確かに、オスカーは誰が見ても美丈夫で体躯も男らしく背は高いし見た目の通り硬派だ。更に言えばあちらの世界で普通に生きてきた美帆にとっては騎士なんて存在空想上に近かっただろう。
格好良く見えるのは仕方ない…仕方ない、のだが。
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