前編

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 事の発端は、高校の時からの友達と飲みに行った時のこと。 『おい郁人、これマジでヤベーから。彼女に飲ませてみ? 俺の彼女なんて、本当にオメガになったのかって錯覚したって。それに、濡れ方半端ねぇの。燃えたわぁ』  下品なまでに彼女との営みの話を聞かされながら、友人である純平が半ば無理矢理、郁人のスーツのポケットに突っ込んだ。それがこの媚薬だ。 「俺は彼女なんていないから」と、断りつつも純平の強引さに持ち帰ってしまった。 「俺はゲイなんだよ」  一人、自室で呟く。  平凡なベータ。キャッチコピーのようなベータの特徴そのままの人間だ。  平凡な家庭に生まれ、平凡な学校を卒業し、たまに恋人が出来てはよくあるパターンの振られ方をする。  振られたとて、特にショックだったこともなかった。  付き合っていた頃は、勿論相手が好きだと思っているのだが、いざ振られてみれば「こんなもんか。ベータだし」そう思えば悲しくもならなかった。  でも今は違う。  実は郁人は初めてアルファに恋をしてしまった。
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