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「なんだよ、それ……。これで反対したら、俺が悪者じゃん」 「あなたは何ひとつ悪くない」  お互いの瞳が潤んでいることも隠さずに見つめあう。零は一刻も早く寿一のそばにいきたくなった。微笑んで立ち上がる。 「わかった。母さんの思うようにしてくれていいよ。手続きとか手伝えることがあれば遠慮なく言って。店のことも心配いらない。もともと俺が継ぐつもりだったし」  驚きと安心が三奈の涙腺をゆるめたようだ。流れる涙を拭うこともせず、無言で零を見あげている。 「これから寿一さんのとこいくね。心配かけちゃったから」 「あ! それならお料理持っていって。鶏の煮込み、たくさん作ってあるの」  それは零の好物だった。トマトソース、ホワイトソースなど味のバリエーションもあるが、三奈は嬉しいことがあると、鼻歌まじりによく作っていた。もしかしたら父親の好物なのかもしれない。そんな想像にも零は嫌な気持ちにならなかった。 「うん。母さんの煮込み美味いから、寿一さんも喜ぶと思う」  こんどこそ三奈の顔が号泣でゆがんだ。  慌てて立ち上がると、キッチンから両手鍋を持ってきて零に押しつけた。  
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