13.おしまい

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13.おしまい

「一天が言っていたんだが」 「うん?」 「「思ってても言わなければ思ってないのと同じで、言ってもやらなければ思わないのよりタチが悪い」そうだ。なるほどと感心した。だから俺もちゃんと言おうと思う」 「はい……」 「俺と、この先も一緒にいてほしい」  言うが早いか寿一に抱きすくめられた。  さきほどまでとは打って変わった性急で荒々しい行為に、零の心臓が跳ねる。 「それって」 「言葉のとおりだ。俺が死ぬまで、今みたいにそばにいてほしい。わがままなのはわかってるが、もう、おまえなしでいられる自信がない」 「寿一さんは死んだりしません! それにお願いされなくてもずっと一緒にいますから!」  零が声を張った。とんだ愛の告白だ。  寿一がぎゅうぎゅうと締めつけていた腕をほどいて、蕩けるような笑顔を浮かべた。 「そうか。よかった」 「俺のほうこそ。ほんとに俺といてくれるんですか? 俺、本気ですよ。子どもみたいに扱われてますけど、俺と恋人になれますか?」 「おまえのことは中学の時から知ってるし、俺のほうが15歳も年上だ。恋人になっておまえを縛りつけるのは、悪いことかもしれん。でも一天が出ていった寂しさより、おまえがいなくなったらと考えるほうが何倍もこたえた」  寿一はつらそうな表情を取り繕いもしない。「もう、どこにも行きませんから」  自分から厚い胸板に飛びこむ。背中に回される腕が熱くて、零に、得も言われぬ幸福感を与えてくれた。    それから。  報告を聞いた一天が、俄然張り切ってアイデアを出し、三奈とレイモンドの結婚披露パーティーが行われた。  父と子はぎこちなく初対面の握手をかわしたが、自分の若い頃にそっくりな息子に父親は唖然とし、息子はとても70歳には見えない瀟洒な佇まいの父親に驚いた。  ブラックスーツ姿のレイモンドの隣には、ゆったりとしたパールホワイトのワンピースを着た三奈が寄り添っている。新婦の持つブーケと新郎の左胸の花飾りは零の同僚からのプレゼントだ。頬を染めた母親の様子に、零は心から幸せを願う。  ささやかだが和やかなパーティーに同席した寿一が、なぜか感極まって泣きだした。  零がそっとハンカチを差しだすのを見て、一天が呆れた顔をした。  これは、テラコッタ瓦の屋根とクリーム色の壁、よく似た外観の家で始まった全く違うふたつの家族の物語。  一途な思いを交差させて結ばれた、不思議な縁のお話。 〈了〉
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