後日談『おとなのえんのふかめかた』

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後日談『おとなのえんのふかめかた』

「先に寝てろって言っただろ」  残業を終えて帰宅した寿一は、リビングのソファに座る零を見て、ばつの悪そうな顔をした。 「おかえりなさい! だってまだ日付変わる前だよ。明日は休みだし」  心配性で、つい小言がでる寿一に向かい、年下の恋人は満面の笑みだ。 「寿一さんと一緒の休みなんて、滅多にないんだから」  寿一は金型製作工場で働いていて、基本的に日曜と祝日が休みだ。零の勤める美容室は火曜日が定休日なのでどうしても休みがあわない。 「代休を俺の休みにあわせてくれるなんて嬉しすぎる! 今夜はちょっとくらい夜ふかししても平気だよね?」  息子の一天が高校の寄宿舎に入った。ひとり暮らしになったのを期に、これまで固辞していた昇進をした。  寿一は優秀な仕上げ工だが、実は全ての工程を経験しどの部署からも信任が厚い。その実力を活かすことを期待されての管理職だ。  先週末は、トラブル対応のために休日出勤をしていた。労務担当者から代休をとるよう言われ、それならばと、零と同じ日に休むことにしたのだ。その調整もあり月曜日から残業になってしまったが、遅い帰宅には他にも理由があった。 「ん? 買い物してきたんだ。言ってくれれば、俺が行ったのに」  寿一が仕事用の鞄と一緒に持っていたエコバッグを、零がさっと手を伸ばして取りあげた。 「あ! これは」慌てて腕を引くが、零のほうが一瞬速かった。 「えっ、これって……」  寿一が深夜営業のドラッグストアで買ってきた商品に、零の動きが止まる。 「その……おまえにその気がなければ、使わなくてもいいんだが、念のために……」 「俺も買ってあるよ、ほら!」  零が、ソファの上に放り投げていたビニール袋の中身をローテーブルに置く。寿一の買ったものとメーカーは違うが用途は一緒だ。  驚いて目をみはった寿一だが、言いにくそうにささやいた。 「それは、俺には小さいから」 「えっ、そうなの……?」  見比べると寿一の買った物のほうが、サイズが大きい。零の目がそわそわと落ち着かなくなる。 「あ、他にも何か買ってあるんだ」  話題をそらせるように、バッグの中に手を入れる。  取り出したのは、先ほどとは使用方法が違う物だ。会話の流れから察すると、零を気遣って買ってきてくれたのだろう。 「よくわからなかったから、とりあえず身体に良さそうな物にしてみた」 「それでオーガニック……」  寿一は精悍な顔つきで、がっちりとした堂々たる体躯の持ち主だ。そんな彼が、深夜のドラッグストアで恋人のために品物を吟味している。  想像したその姿に嬉しくなり、零は思いきってもうひとつの商品のついても聞いてみた。 「これは、寿一さんが飲むんだよね……?」  零の手にあるのはドリンク剤だ。寿一がふぅと息を吐いた。  
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