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お転婆で元気いっぱい、家で遊ぶより外に飛び出していく方が好き。そんな杏だが、最近ちょっと様子がおかしいとは思っていたのだ。
カレンダーを見て、ため息ばかりをついている。しまいには、さっきみたいにまるで象の鼻息のようなため息をつく。見ていてなかなかうっとおしいのは間違いない。
「で、どうしたんだよお前は」
朝食の皿とコップを洗って机を拭いたところでようやく本題。杏の部屋に移動して話を聞くことになる。
ちなみに、今日と明日は両親が法事で出かけてしまっていていない。家には私と妹だけである。
「夏が終わらなくなる方法ってなに?夏休みが終わるのが嫌なの?」
「夏休みが終わって欲しくない小学生がいる?いやいない!」
「ほう?ってことは夏休みの宿題が終わってなくて現実逃避したいと?」
「確かに終わってないけど、あたしが困ってるのはそこじゃないもん!夏休みの宿題なんて、先生に叱られる覚悟さえ決めていればいくらでもブッチできるんだから!」
「その覚悟の決まり方間違ってっからな!?」
駄目だこりゃ、と私は頭を抱えた。次の三者面談で、先生に暴露されて母のカミナリが落ちても知らんぞ、と思う。その結果巡り巡って、友達と遊ぶ時間を減らされたり、塾に行かされることになるかもしれないけどいいのか、と。
昔から妹は勉強とつくものが大の苦手だ。学校の成績も、体育だけA評価というわかりやすいタイプである。運動神経が良いのは羨ましいことではあるが。
「そうじゃなくて!……夏休みが終わってほしくないのは確かなんだけど、理由は宿題じゃなくて……」
杏はもじもじと、ベッドの上で両足をすりあわせた。
「……な、夏休み前にね。ちょっとした出来事がございまして」
「何?」
「…………大翔くんに言ったの。好きですって」
「何ですと!?」
ずささささ、と思わず私は彼女の前に身を乗り出してしまう。
「マジで?え、マジで!?あの、恋愛に関しては超奥手のあんたがついに大翔くんに告白できたの!?すっげえじゃん、よくそんな勇気だしたな!で、どんな風に玉砕したんだ!?」
「玉砕前提で話訊くのやめてもらえますかねお姉様!?」
ぶうう、と少女は頬を膨らませた。冗談だってば、と私は苦笑いする。
いやしかし、まさか妹がそんなことをしていたとは。彼女がクラスメートの大翔に恋をしているというのは、前々から話では聞いていたのである。サッカークラブのストライカー。クラスで一番足が速くて、ドッジボールも強いヒーロー。顔も可愛らしいし、多分クラスでも相当モテる系男子ではなかろうか。
かなりの倍率であるはず。そんな相手に恋をしてしまったとは、なんとまあ難儀だなと思ったものだが。
「……してないっていうか……いや、わかんないんだってば」
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