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はあ、と妹は何度目になるかもわからないため息をついた。
「好きです、って伝えて……大翔くんがきょとんとして固まったところで逃げちゃったから。しかも、それが一学期最後の日。そのまま会ってなくて……。め、メールとかLINEとか知らないからそっちでも連絡取れなくて」
「おう……つまり返事を聞かないままになってると」
「うん。だから、夏の終わりっていうのがしんどくて。……このまま夏休み終わったらさ、大翔くんと顔合わせるわけじゃん?それで、返事を聞くのが怖いというか。……むしろ、返事してもらえなくてもそれはそれでショックというか。だから、もういっそ夏が終わらない方法か何かないかなって……黒魔術的な何かで」
「その発想はおかしい。……いや、気持ちはわからなくはないけど」
なるほど、ようやく筋が通った。まったく面倒くさい妹だと呆れるしかない。ようは、気まずい状況は自分で作ったものではないか。いっそ、返事をその場で聞いてしまっていたら、フラレたとしても一か月気持ちの整理に使えたかもしれないのに。
「……時間は止まらないよ。先延ばしにできたところで、それは何の解決にならないってあんたもわかってんだろうが」
やれやれ、と私は肩をすくめて言った。
「気まずいのは、向こうも一緒。むしろ、あっちの方が困ってんじゃないのかね」
「なんで?」
「決まってる。杏が求めてる答えが“俺も好きです付き合います”以外ないってのがわかりきってるからだよ。……他に好きな子がいたら?もしくは、まだあいつが恋愛ってもんをよくわかってなかったら?そりゃ返事なんかできないだろ。あんま考えたくないけど、他に好きな子がいなくても、あんたのことを異性として意識できませんってケースもあるし、なんなら極端な話実は大翔くんが同性愛者なので恋愛対象ではありません、なんて可能性もある。……しかもメールとかで、顔合わせずに返事する方法がなかったわけだからさ。あっちだってきっと困り果ててるって」
「う、うう……」
いつも元気な妹が、しおしおと体を小さくして呻いている。私が言うのもなんだが、恋する乙女というのはまったく面倒くさいものだ。
相手の事が好きだからこそ恋をするはずなのに、時に自分が“愛されたい”という欲望を最優先してしまう。その結果、好きであるはずの相手の立場や気持ちを思いやることができなくなってしまう。
向こうも気の毒である。杏のことを好きにせよそうでないにせよ、一か月以上まるっと悩ませてしまったのかもしれないのだから。
「返事がなければ、あんたは自分の都合の良い方に、あるいは悪い方に解釈する。でもって、場合によっては大翔くんのことを露骨に逆恨みするでしょ。……悪いのは、あんたの方だってのに」
杏のことは、妹として大切に思っている。できればその恋だって成功してほしい。
だからこそ。
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