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大好きな祖母が亡くなった。
優しくて、穏やかで、心配りの出来る祖母を私は尊敬していた。
祖父を早くに亡くしてそれからずっと一人で暮らしていた祖母。
そんな祖母の家に遺品整理へ訪れたのはお葬式が済んで暫く経ってからだった。
家に入ると祖母との思い出が甦り、涙腺が弛んでしまうので遺品整理どころではない。
淡々と、テキパキと……まるで決められた作業のように家の物をゴミ袋へと突っ込みながら母は私に言う。
「あんたはおばあちゃんの部屋を片付けてきて。何かいるものがあったら持って帰っていいから」
形見分け、というやつだろうか? 何にしても祖母を感じられる何かが欲しかった私は祖母の寝室へと向かう。
祖母の寝室は四角い畳の部屋。
この部屋で私は小さい頃に祖母と同じ布団で眠ったりしたものだ。
部屋には箪笥と押し入れがあり、まずは箪笥を開けてみる。
すると、祖母がよく身につけていた黒色の数珠のようなブレスレットを見つけた。
私はそれを手首へとはめ、これから一生大切にしていこうと決めた。
次に押し入れを開ける。
上段には座布団や裁縫道具、その他細々したものが並べられており下段には布団が押し込まれている。
祖母は昔洋裁をやっていて、本格的な道具も持っていた。
私はそれらを譲り受け、趣味として始めてもいいかもしれないと思い裁縫道具がおさめられたボックスを取り出す。
すると、ボックスの奥に両手に乗る程のサイズの木箱を発見した。
裁縫道具を一旦畳の上へおろして、木箱を取り出す。
中に何かが入っているらしく、それなりの重量感がある。
一体中身はなんだろう? まるで隠す様にして保管されていたから貴重品だろうか? 昔祖父に買って貰ったアクセサリーとか……。
私はまだ見ぬ中身に期待して心を弾ませて木箱の蓋を外す。
すると中には──
大量の黒い髪の毛と歯、そして爪がぎっしりと詰め込まれていた。
私は叫んでそれを放り投げようとしたが、「円~? 何かいいものあった~?」なんて呑気な母の声が聞こえてきてぐっと悲鳴を噛み殺す。
それから木箱に蓋をして、私はとっさにそれを持って来たバッグの中へとしまった。
実の娘である母には見せてはいけない、そう思っての行動だった。
この木箱は一体なんだろう? 何の意味があるんだろう? 私は見つけてはならないものを見つけてしまったのかもしれない。
祖母のあたたかな柔らかい笑みを思い出したが、何だか気味が悪くて体が震える。
私はブレスレットを外すと、それを箪笥に戻してから母の元へと駆け出した。
≪終≫
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