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それはシェインだった。
「ロウ、お前、誰と話しているんだ?」
「ああ、シェイン、おかえり。ほら、お前らの探しているうさぎだよ」
「え? ほ、本当だ! 俺たち一晩中探したのに、まさかロウの罠に掛かっていたなんて!」
「お姫様のところに連れていきなよ」
「でも、捕まえたのはロウじゃないか。手柄を横取りなんてできないよ」シェインは戸惑い気味に言った。
「俺はあの人と結婚なんてごめんだ。遠慮せずに連れて行けよ」
「でもなあ……そうだ、一緒に連れて行こうよ。俺が姫と結婚するから、お前は欲しい物を貰えばいい」
「欲しい物なんて別に……」
「最新式の農機具でも、貰えばいいじゃないか」
「最新式の農機具!」
それまで興味なさそうに話していたロウの顔が、一瞬で輝いた。
「そ、そうだな。よし、一緒に行こう!」
「本当に農業一筋なんですね……」急にいそいそとし始めたロウを見て、うさぎが感心したように言った。
「お前、喋れるのか!」
「私は月の女神、嫦娥様に仕えるうさぎ。人語くらい話せます」驚くシェインに、うさぎはロウに言ったセリフを繰り返した。
「はあ……言葉は丁寧だけど、なんか偉そうだな」
「ではさっそく、そのお姫様とやらのところに行きましょうか」
いつの間に、どうやって箱罠の外に出たものか、うさぎは二人の前に立って促した。
「ずいぶん積極的だな。俺たちにとってはそのほうが有難いけど」ロウが、先に立って歩き始めたうさぎを見て、少し戸惑い気味に言うと、シェインが、
「そういえば俺たち、なんでお姫様がうさぎを探しているのかも知らないんだよな」と、不安そうに言った。「うさぎに何か悪いことがなければいいけど」
「どうせ、私の作る薬が欲しいのでしょう。千年前にも、似たようなことがありました」
うさぎは、やれやれといった風な顔をした。ロウは、(うさぎの癖に表情が豊かだな)と思いながらも、それは口に出さず、
「何の薬?」と訊いた。
「不老不死の薬です」
「不老不死! すごいじゃん! そんなの作れるの?」シェインが大きな声を出した。
「はい。ただし効き目があるのは千年。私は嫦娥様の命を受けて、千年に一度、満月の光を浴びた材料を集めるために、この地上へ参るのです」
「そうだったのかあ。姫は美貌が自慢だものな。いつまでも若くいられる薬なら、喉から手が出るほど欲しいだろう。俺にも飲ませてくれるかな」
興奮気味に喋るシェインとは対照的に、ロウは黙ってうさぎの後ろ姿を見ながら、彼がスタスタと二足歩行をしていることに今更ながら気づき、感心していた。
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