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「瑞生ぃ、『おくすり』ちょうだい」
「また?」
しおれた顔で教室に戻ってきた恭介を一瞥し、僕は鞄から袋を取り出した。袋の上部についているチャックを開けて、中から白い粒を一つ、つまみ上げる。
恭介が、座っている僕にずかずか近づいてきて、前の席に勝手に座った。
「はい」
「助かる」
僕の人差し指と親指に挟まれた粒を、恭介が口で迎えにきた。わずかに恭介の粘膜に触れた部分をハンカチで丁寧に拭き取っていると、正面から不満げな声がした。
「お前さあ、露骨に嫌そうな顔すんなよ。よだれ垂れないように気をつけて食っただろ? あ、これうまい。味いつもと違う? 新商品?」
表情も声色もコロコロと変わる。まったく、忙しい人だ。
「ご明察」
僕は持っていた袋を突き出した。ラムネ菓子のパッケージだ。塩りんご味、新発売の文字。おまけに「レジにて半額」のシールまで貼ってある。
「塩りんごか、なるほどね。納得。てか、半額ってすごくね? 安すぎじゃね? こんなにうまいのに売れ残ってたってこと? 人気ないの? みんな見る目ないね」
「んー、まあそうなんじゃない。で、今日は何年何組の誰にフラれたの?」
ラムネを鞄にしまいながら言うと、恭介が思い出したかのように「はあー」っと盛大なため息をついた。
「二年四組のユキちゃん」
「今回は同い年か」
「バレー部のマネージャーでさ、いつも俺に笑顔でドリンク渡してきてくれるから、脈アリだと思うじゃんっ!」
「恭介はすぐ人のことを好きになるよね。高校入ってからフラれるの何回目? 二桁いってるでしょ」
僕は呆れながら机に左肘をつき、手のひらの上に自分の顎を乗せた。
「恭介さ、女の子だったら誰でもいいって思ってない?」
「んなわけないだろっ!」
恭介が勢いよく机を叩く。振動が肘を伝って顔まできて、危うく舌を噛むところだった。
「人を好きになるスパンは他の人と比べたら短いかもしれないけど、ちゃんと毎回本気で好きになってるから!」
憤慨する恭介を見て、思わず頬が緩む。表情の豊かさは小学生の時から全然変わってないなと思った。
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