ほろ苦い青春ラムネ

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「あのあと、ちゃんと逆上がりできるようになってたもんな。すごいよ、恭介は」 「一体いつの話してんだよ。瑞生その話好きだよな。恥ずかしいんだけど」  恭介は不満げに、僕があげたソーダ味のラムネをガリガリ噛んだ。ちなみに今日は、「一年一組のサチちゃん」だそうだ。 「おくすり、なくなっちゃった。もう一個ちょうだい」 「もっと大切に食べてよ」  べえっと舌を出して見せる恭介から目を背けながら答える。 「そんなに頻繁に食べるなら、自分で買ったら?」 「俺が買ったら、ただのラムネ菓子だろ? 瑞生からもらったのじゃないと、効かない。だから」  かぱっ、と大きく口を開けた恭介が近づいてくる。 「ふうん。仕方ないな」  気のない返事をしながらも、頬が緩みそうになった。それを隠すように左手で口元を覆い、右手で恭介の舌に小さなラムネを一つ乗せた。僕の指が抜けたのを見計らって、恭介の唇が閉じる。顎が動いている気配がないので、今度は舐めて味わっているようだ。 『瑞生が食べさせてよ。この『おくすり』、その方がもっと効くような気がする』  涙に濡れた瞳で恭介がそんなことを言ってきたのは、小学校の卒業式のあと、恭介が初めて女の子に告白してフラれた日だった。校庭の隅で、親鳥になった気分になりながら恭介にラムネを食べさせたことを、今でも鮮明に覚えている。  その習慣がこんなにも長く続くとは思わなかった。高校生にもなって、男友達の手からラムネを食べることになんのためらいもない恭介が不思議でしかたない。クラスメイトに見られて「キモい」と思われたらどうしようとか、万が一にでも「付き合ってる」なんてデマを流されたら高校生活が終わるとか、心配にならないのだろうか。
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