ほろ苦い青春ラムネ

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 女子、放課後、空き教室、呼び出し。何度も経験すれば、それらの要素だけで告白だと分かる。案の定、校舎の隅の多目的室で待ち構えていた女の子は、「瑞生くん、好きです。付き合ってください」と上ずった声で言い、頭を下げた。そのつむじを黙って見つめる。  当たって砕けて落ち込んで帰ってくる恭介を見て、告白はエネルギーを使うものだと知っている。だからこそ、僕に告白してきた相手を悲しませたくなかった。自分が承諾すれば相手が幸せになれるのだと思えば、「いいよ」と言うのは容易いことだった。  恭介に言われた「誠実じゃない」という言葉を思い出す。僕が告白を受け入れて一時的に相手が喜んでくれたとしても、最終的に不満が残るのなら、むしろ、最初から期待させない方が「誠実」なのかもしれない。  唇を湿らせてから息を吸った。 「気持ちは嬉しいんだけど、ごめんね。君とは付き合えない」  彼女が勢いよく顔を上げたので、僕はぎょっとした。怒ったように眉がつり上がり、目からは涙を流していた。 「どうして。私の何がいけないの? 今まで瑞生くんに告白してフラれた人なんて誰もいないのに。他の人と何が違うの? 悪いところあったら言って。なおすから」 「違う、そういう問題じゃない」 「じゃあどうして! 私が美人じゃないから? でも、この前付き合ってた後輩よりも、私の方が服装に気を遣ってるしメイクも頑張ってるから可愛いよ? 一週間で別れたってことはタイプじゃなかったんでしょ? やだよ、付き合ってよ、私だけフラれるなんて、恥ずかしいじゃん。瑞生くんの元カノの中で誰よりも劣ってるってことじゃん。やだよ……」  両手で顔を覆い、ワンワン泣き出してしまった。僕はその様子を冷めた目で見つめてしまう。恭介だったら、こんなに喚かないし、他人を貶めるようなことは言わない。 「君は恭介じゃないから。ごめんね」  言葉が飛び出した。言ってしまってから怖くなる。変に勘ぐられるかもしれない。緊張で体がこわばった。彼女は声を荒らげた。 「当たり前じゃん! 私は女だし。恭介と比べてどうするの? え、まさか、彼女を作ることよりも親友を大事にしたくなったってこと? 今更?」 「まあ、そうだね」  一瞬だけ胸がチリリと痛んだが、すぐに安堵した。僕と恭介が「親友」に見えるのなら、僕が何もしない限り、恭介まで奇異の目で見られることはないだろうから。 「もういいっ!」  彼女は涙を流したまま、教室を飛び出していった。きっと僕が彼女の告白を断った話は、瞬く間に拡散されるだろう。面倒だ。オッケーしとけばよかったかな。そう考えてすぐに恭介の顔が浮かんだ。 「ごめん」  誰への謝罪なのか、自分でも分からない。僕のつぶやきは教室の床に落ちて消えた。
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