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15.いちゃじゃない!※
「吉良く……ん?」
僕は最初、吉良くんがもっと二人で話したくて呼んでくれたのかと思った。だけど吉良くんの表情は、さっき見せてくれた笑顔とは違って、硬く口元を結んでいる。
何も言わないで黙って僕をみているので、不安げに見上げていると、ため息をついて今度は手を引いて廊下の奥へと連れて行かれた。
そこにあった扉を入ると、どうやらそこは洗面所スペースのようだ。牧瀬家よりも広くて豪華な作りで、お風呂が見えた瞬間僕はぞっとして背筋を伸ばした。背後で吉良くんが扉を閉めると、みんなからはかなり距離があるように思えた。
「吉良くん、お水はイヤだ!」
「は?」
僕は震える声で吉良くんに訴えた。
みんなの酒臭いのが移ったのかもしれない。だけど、洗われるなんて絶対嫌だ!僕はシャワーを浴びる時は自分のタイミングで息を止めてさっさと済ませることにしているんだ。
眉根を寄せてこちらを見下ろす吉良くんの腕に僕は縋り付いた。背後にあるバスルームをチラリと振り返ると、やっぱり恐怖で体が小さく震えている。
「おまえ、さっき何してた?」
縋り付いた僕の手を解き、触るなとでも言うように、吉良くんは僕の体を押し戻した。
「なに……って?お、オサケは飲んでない!臭くないでしょ?!」
「そう言うことじゃねえよ」
吉良くんの静かだけど低い声に、僕はぴたりと動きを止めた。
「いちゃついてたよな?従兄弟と、気づいてないとでも思った?」
「……ん?いちゃ……?」
「毛布の中でなんかごそごそしてただろ?キスしてるの見えたっつの」
吉良くんはそう言って呆れたようにため息をついた。
僕は吉良くんが何を言っているのか理解するまで少し時間がかかってしまった。でも、わかった。確かにさっき寝ぼけたレオンに舐めたり噛みつかれたりした。あれは猫だったら当たり前のことだけど、人間同士は普通しない。それは事前講義で習っている。
「チガウよ!いちゃじゃない!」
「は?誰が見たってそう思うって」
吉良くんは向こうの部屋に皆んながいるのを気にしているのか、大きな声は出さなかった。
だけどその表情は秋山みたいにギュッと硬くなっていて、これは怒っているのだとすぐにわかる。
僕は吉良くんが大好きだけど、怒っている吉良くんはとても怖い。今は無いはずのしっぽがビリビリする。
「吉良くん……ごめんなさい」
気がついたら僕は謝っていた。
それは吉良くんの言葉を認めることになるってことにはすぐに気がついた。でも、もう遅かった。吉良くんは僕の言葉を聞いた途端、呆れたとでも言うようにため息をついて、腰に手を当て視線を僕から外して少し上の方にやった。何か考えていると言うよりも、苛立ちを抑えているように見える。
「いったよな?俺、他のやつとそういうことされるの無理って」
言ってた。吉良くんの言葉は全部覚えている。
僕は首を振って、必死に違うと訴えた。
「てことだから、終わりな」
「……お、オワリ?」
「そう、終わり。俺、お前無理だわ」
どっちかが「無理」と思ったらすぐ終わり。
吉良くんは確かにそう言っていた。
「イヤだ!吉良くん!」
僕は吉良くんの両腕の衣服をギュッと握りしめて詰め寄った。
すぐ終わり、と、約束したけど、僕はどうしても嫌だった。
「大きい声だすな、みんなに聞こえんだろ」
「ごめん……」
「とにかく、そういう約束だっただろ?この話もう終わりな」
吉良くんはそう言って僕の手を解くと、そのまま向きを変えて洗面所の扉に手をかけた。出て行こうとしているとわかって、僕はその背中に飛びついて今度は腰に手を回した。
「吉良くん!イヤだ!お願い!」
「くそっ、こら、はなせっ」
「イヤだ!」
にゃー!!カブリッ!
「……っいってぇ!」
必死に押し殺したような吉良くんの声を聞いて、僕は我に帰り青ざめた。
噛んでしまった。大好きな吉良くんの腕に、ガブリと噛みついてしまった。
血の味はしない。だけど皮膚に食い込んだ感覚があった。僕が噛みついた場所を吉良くんは手で押さえている。
「ご、ごめっ…」
下唇が震えて、うまく言葉が喋れなかった。吉良くんが目線を僕に上げたのと同時に、僕はさらに動揺して体を跳ね上げた。
やってしまった。
何か危害を加えられそうになって、身を守る時以外は、人間に噛みついたり引っ掻いたりしてはいけないとキツく言われていたのに。
吉良くんに行って欲しくなくて、咄嗟に噛んでしまったのだ。
僕は混乱したままバスルームに飛び込んだ。
「おい、待て!」
吉良くんは逃げる僕を追って手を伸ばした。腰のあたりを掴まれて動きを止められてしまう。
怒られる!ごめんなさい!
逃れようと手を伸ばしたら、それがシャワーのハンドルに触れてしまったようだった。突起に手があたり、それがキュッと半回転すると、吉良くんと僕の頭にシャワーヘッドから水が降り注いだ。
「くそっ、なにしてんだよ、もう!」
吉良くんはそう言って、ノズルに手を伸ばして水を止めた。体が濡れてしまった僕は、恐怖で吉良くんに抱えられたまま硬直した。
浴びた水が髪から、首を伝った。着ていた衣服も濡れてしまっている。
「ほんと意味わかんねえなお前」
吉良くんは僕をかかえたまま舌打ちすると、バスルームから連れ出した。びしょびしょの頭に、棚からタオルを取り出して、投げるように被せてきた。
「吉良くん、ごめんなさい」
「あー、もういいよ。ごめんとかいらない。とにかく終わりってだけだから」
僕の噛み跡を見て、吉良くんは「いてぇな」と毒付いている。自分もタオルを片手に持ってまた洗面室を出て行こうとする吉良くんの腕に、僕は膝をついてしつこく縋りついた。
「おまえ、いい加減にしろ!」
吉良くんが手を振り払った瞬間に、僕の頬を吉良くんの手の甲が弾いた。わざとじゃないのはわかった。僕に当たったと気がついた瞬間、吉良くんがはっとした表情をしたからだ。
「イカナイデ、吉良くん……」
痛かったというより、顔に衝撃があったことに驚いて、僕の目からぽろぽろと涙が溢れてしまった。
吉良くんは顔に手を当てて、ため息を吐くように肩を揺らしている。
「泣き落としかよ、くそビッチ。別にお前が誰とやりまくってようと関係ないけどな。何が無理って、嘘つかれたり裏切られたりするのが、俺は一番嫌いなんだよ」
捲し立てる吉良くんはまるで別人みたいだった。早口なのといくつかの単語の意味がわからないせいで、僕は吉良くんが何を言っているのか正確に理解することができないでいる。とにかく、僕が吉良くんを怒らせてしまったことだけは確かだった。
「き…きらっ…く…っ……ご、ごめん…」
「だー、もう、うぜえな、泣くな」
座り込んだ僕の前に、吉良くんが屈んだ。頭に乗ったタオルを退けると、僕の顎を片手で掴んで持ち上げる。
「ヤルだけならべつにいいけどな?付き合うとか恋人とかそもそも煩わしいし。そんなこと言うからこうやって揉めるんだよ」
吉良くんは僕の顎を掴んだまま、ずいと体を押してくる。背中が壁に押し当てられて、僕は隅に追いやられていた。
吉良くんは抑えていた手の指を僕の口に押し込んだ。2本の指で舌を押されて、舐めろと低い声で言う。
僕は言われた通りに吉良くんの指を唇で挟んで舌で舐めた。
吉良くんの反対の手が僕のズボンの留め金を外して、乱雑に引っ張るせいで、背中が壁をずり落ちる。だけど吉良くんは指を僕の口に押し込んだまま、ぐいぐいと押して、苦しくてまた涙が出てきた。
「大きい声出すなよ?」
そう言って、吉良くんは僕の口から指を引き抜いた。そして、さっき乱暴に引き下ろされて露わになった僕の下半身にその手を動かしている。
急に後ろの孔にて指をあてがわれて、驚いて僕は体を跳ね上げ、吉良くんの肩を掴んだ。
「吉良くんっ!」
「大きい声出すなっていってるだろ」
睨まれて、僕は声を押し殺した。
吉良くんは僕の唾液で濡れた指を、ぐいぐいと孔に押しやって、やがて一本が中の皮膚を押し広げた。入り込んでくる違和感で、僕は息を止めた。声を押し殺した息を吉良くんの肩に押し当てていると、また吉良くんの舌打ちが聞こえる。その度に僕の胸はひどく傷んだ。
吉良くんは一度指を抜いて、僕の体を後ろの壁に押し当てた。
その後で、自分の下半身の衣服を引き下ろして、その中心を露わにしている。まだ熱くなりきらないそれを、僕の口元に押し当てながら、吉良くんはこちらを見下ろしている。
「どうすればいいかわかんだろ?いれてやるから勃たせろよ」
あの夜の吉良くんとは違う。だけど、また舐めろと言われていることはわかった。
吉良くんのそれを含もうと僕は小さく唇を開く。歯が当たらないように気をつけながら吸い込むように口に入れた。
吉良くんが両手で僕の頭を押さえて、頬の内側にこすりつけてくる。すぐにそれは熱く硬さを増して、口内で膨らんだ。
頭を押さえられたせいで自分のタイミングで呼吸ができない。でも、必死で舌を這わせて、溢れそうな唾液を吸った。苦しくて嗚咽と涙が込み上げてくる。吉良くんの腰のあたりの服を掴んだ。
「ちゃんとやらねぇと、痛い思いするのお前だぞ」
見上げると、吉良くんはそう言って目を細めた。気持ちいいのかわからない。
前に吉良くんが喜んでくれた舌で、一生懸命裏筋やその形を追ったけど、頭を抑えつける手と吉良くんの奥まで押し込むような動きが苦しい。込み上げた涙が溢れて、口の端から唾液が溢れた。
喉奥を突かれてえずきと共に噛み締めそうになるのを必死に堪える。
「やっぱ、下手くそ」
また僕は上手くできなかったみたいだ。吉良くんが舌打ちして、僕の口から腰を引いた。
やっと吸えるようになった呼吸を肩で整えようとしていると間髪入れずに腰の衣服を引っ張られた。脚の膝のあたりまで下げられていた衣服は下着ごと片足だけ引き抜かれた。自分の露わになった下半身は熱を待たずに縮み上がっている。
一緒に体も引きずられたので、頭と肩だけ、壁について正面の吉良くんに腰を抱え上げられて背中がまるまっている。僕の脚の間で吉良くんが膝をついた。
「ゴムないけどいいよな?奥まで入れて中で出してやるよ」
そう言って先端を僕の後ろの孔に押し付ける。
痛みに、息が止まった。先端が無理やりこじ開けようと、ぐいぐいと押し当てられている。
―痛い!裂ける!切れちゃう!
言葉にならずに、うめき声だけが出た。
無意識に吉良くんの肩を強く押して、自分の体を引く。だけど壁に追い詰められているので逃げ場がなかった。
「うぅっ…」
息を吐くと、痛みと恐怖でまた涙が溢れた。
やめてと言ったら吉良くんはまた離れてしまうかもしれない。耐えるつもりで奥歯を噛み締めた。
「おい、やめて欲しいならやめろって言えよ」
吉良くんは孔に押し当てて、揺らしながら僕の顔を覗き込んだ。あの夜みたいに、僕は吉良くんの鼻先に鼻筋を擦り付けようとしたけど、それを避けるみたいに肩を押さえつけられてしまった。
床についた吉良くんの腕を必死に掴んで力を入れる。
「やめてって言えって」
「ぅうっ……」
痛い……でも、吉良くんに離れて欲しくない。
僕は必死になって耐えていた。
「くそっ」
吉良くんはそう言って唐突に動きを止めた。
無理矢理こじ開けようとしていたそれが離れて、僕はどうにか息を吸えるようになった。
「はいんね」
何がきっかけになったのかわからなかったが、吉良くんは空気が抜けていくみたいに急に人が変わったようだ。というより、さっきまでの吉良くんが別人で、今僕の知ってる吉良くんが戻ってきたみたいだった。
僕の腕を引いて体を起こすと、背中に腕を回して抱き寄せた。僕は吉良くんの首元に顔を埋めて、さりげなくその首筋の匂いを嗅いでみる。大好きな吉良くんの匂いだ。
「ごめん、俺が悪かった」
耳元で吉良くんが小さくそう言った。
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