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22.二日酔い
「むぎゃっ」
突然の圧力に僕は眠りから覚めた。息苦しさと圧迫感で顔の上に何か乗っているのだと理解した。口の中に毛が入る。
僕は頭の上に乗ったレオンのお尻に猫パンチを喰らわせた。
「まぁた門限破りらしいじゃないか、ゴウコンなんて楽しそうなところに、俺を誘わないからだぞ?」
レオンは僕の上から退くと、しっぽをぶんぶん振りながらフンと鼻から息を吐いた。
目覚めてから気がついたけど、僕はひどい状態だった。喉はカラカラだし、頭はなんだかズキズキする。体調が悪いせいか体の毛はなんだかボアボアしているし、目ヤニでまともに目が開かなかった。
ヨタヨタと起き上がり、僕は吸水機で水を啜った。その後で部屋の中を見渡すと、昨日僕が着ていた服と荷物が部屋の隅に置かれている。秋山が持ち帰ってきてくれたものだ。
レオンの言う通り、僕はまた門限破りの失敗をしてしまったのだけど、秋山は昨日僕にお説教をしなかった。部屋に連れてこられて、早く寝ろと寝床に放り投げられた。それだけだった。
「それにしても、昨日の秋山面白かったぜ。お前がぜんぜん帰ってこないからって、コロコロ握ったまま家中うろうろしてさ。春日がGPS辿ればって言ったら、一目散に飛び出して行ったんだ」
僕はレオンの話を聞きながら、ゴシゴシと目元を擦った。やっと、ちゃんと目が開くようになった。
「あとで謝っとけよ、心配かけてごめんって。春日は……ちょっとわかんないけど、秋山は相当心配してたぞ」
「うん」
昨日の秋山を思い出した。
僕の前に現れた秋山は、肩ではあはあ息をしていたし、鼻を体にくっつけたときに汗ばんだ匂いがした。
「俺も心配したんだからな」
そう言ってレオンが尻尾でペシリと僕のお尻を叩いた。
「うん、ごめんね、レオン」
僕は横柄だけど優しい従兄弟の耳の裏をペロペロと舌で舐めてやった。
少し頭の痛みが落ち着いてきたところで、僕は昨日背負っていた自分の荷物の中身を漁った。秋山が辿ったというGPSはスマホ内蔵されているものだ。
最初の設定を間違えて、顔認証は猫の時のままになっている。人間の時は毎回暗証番号を入力している。
メッセージの受信を知らせるマークが付いていて、僕はそのアプリを起動した。
昨日、ゴウコンをして吉良くんの友達からのお礼メッセージ、IDを交換した女の子からの遊びの誘い。莉央と河本とのグループラインには、河本が飼っているほっぺがまんまるのオカメインコの動画が送られてきている。
でも、吉良くんからのメッセージはなかった。マタタビ状態だったとは言え、昨日猫の僕に手を差し出したのは吉良くんだった。
あの女の子とは吉良くんの望む、軽い付き合いをしているんだろうか。
「あれ?」
僕は荷物を漁りながら、あることに気がついた。中身を全部引っ張り出して、リュックの中に潜り込んだがやはりない。そもそも僕はあれをリュックには入れてなかった。大事に手で抱えていたのだ。だけど、僕はそれをいつから持っていなかったのか思い出せない。
自販機でうずくまっていたときには持っていただろうか。
「どうした、ツナ?そんなに耳寝かせちゃって」
レオンが動揺する僕の様子に気がついたようだ。
「どうしよう、レオン!」
僕はあせってレオンに飛びつく。
「なんだよ!どうした?!」
「なくしちゃった!!」
「いったい何を??」
「靴……無くした…」
「靴?履いてた靴なら玄関だろ?」
「違う!」
僕は首を振った。
「吉良くんに選んでもらったボルダリングシューズ!」
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