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5.ごほーし失敗※
「な、なんで……」
どうして、なんでバレちゃったんだ?!
僕が猫だって!
「え?ちげえの?」
僕の様子に、吉良くんがなんだか気まずそうな顔を見せた。まだ誤魔化し切れるかもしれない。
「違う、チガウヨ!」
そう言うと、吉良くんはさらに気まずそうに視線を泳がせた。「まじか」と口元で言いながら、体の向きを変えてソファに正しく座り直している。
「俺さ、バイなんだけど、突っ込まれる方は無理なんだよね」
吉良くんが何を言っているのか、僕はいまいちわからなかった。だけど今まで鼻を擦り合わせたり口をつけたりしてたのに、吉良くんは僕から離れて座り直している。
「吉良くん、仲良くなれない?」
そう問うと、吉良くんは少し座り方を変えてソファの背もたれに肩肘をついて僕の方を向いた。手を伸ばして指で唇に触れた後、顎の下を撫でられた。気持ち良くて喉がごろごろなってしまいそうだ。
「まあ、他にもやり方はあるか」
そう言うとまた顔が近づいて、唇を舐めた。その舌先が唇を割って中に入ってくる。僕の舌を絡め取った後、一度吉良くんは唇を離した。
「お前の舌何?気持ちい」
そうか、人間の舌はみんなつるつるしているらしいから、僕らのとは少し違う。この体は所々まだ曖昧に猫の要素を残している。
「遺伝」
嘘ではない。遺伝という言葉がすぐに出た自分を褒めたい。
吉良くんはイマイチ納得してないようだけど、まあどうでもいいかとつぶやいてまた唇を重ねた。
吉良くんの舌裏あたりをザラリと舐め返すと、気持ちよさそうに目を細めている。
「なあ、お前俺のこと好きなんだよな?」
また唇を離した吉良くんが僕の顔を覗き込んだ。
「違うよ、好きじゃなくて、大好き」
それを聞いて吉良くんは満足げに笑っている。
「じゃあちょっとご奉仕して」
「ごほーし?」
「そう、ごほーし」
よくわからないけど吉良くんが言うから僕は首を縦に振った。
吉良くんは頷いた僕をみてから、肩を押す。背もたれに背中がついて、深くソファに座るような形にになった僕の上を、をまたぐように吉良くんが膝を立てた。目線の先で、自分のベルトを外してファスナーを下げている。
吉良くんのものが下着の中で僅かに熱をもって膨らんでいた。そのことは僕にも身に覚えがあるのでわかった。
「その舌、めっちゃ気持ちよさそうだからちょっと咥えてみてくんない?」
なるほど、そう言うことか。でもこれがなかなかデリケートかつセンシティブな行為だと言うことは流石の僕にもわかる。
ためらっていると、吉良くんの右手がまた僕の顎をくすぐった。
「してくんないの?」
します。やります。
経験はないけど、吉良くんにそんなふうにお願いされたらやらないわけにはいかない。
言葉にはできなかったが、下着の上から吉良くんのものを咥えるように啄んでみた。
それを答えととったのか、もう一つの手が僕の後頭部をなでた後、下着を下ろした。
吉良くんの性器が鼻にあたる。少し硬く起き上がっていたその裏筋に恐る恐る舌を這わせると、吉良くんが小さく息を吐いたのがわかった。
先端を咥えると、すぐに口の中で硬さを増してそりかえっていく。
吉良くんの顔が見たくて目線を上げると目が合った。吉良くんは僕の顎を撫でると気持ちよさそうに目を細めてまた後頭部に反対の手を回してくる。
少しずつ抑えつけられるように固定されて苦しくなってくる。だけど舌で裏筋を舐めると、吉良くんが気持ちよさそうに息を吐くから続けていたら、そのうち先端が僕の口蓋をくすぐるように行き来し出した。
その感覚が心地よくなって、自分の体の中心が熱を持ち始めてしまった。しかもこの目線を上げると見える吉良くんのビジュアルもかなりくる。
だけど、さらに強く固定されて動かされると流石に苦しい。息苦しくて、目元がジワリと熱くなってくる。
やめて欲しいのか続けて欲しいのかよくわからない感情に陥って、無意識に手が吉良くんの背後を掴んだ。
「こら、けつ揉むな」
吉良くんは笑った後でその手を掴むと、僕の口から自分のものを引き抜いた。
その後で確認するように僕の口に指を入れて中をのぞいてくる。人間の医者が診察する時の、あの仕草に似ている。
「舌はめっちゃ気持ちいけど、お前慣れてないな。イケなそうだわ」
どうやらごほーし失敗のようだ。
「ごめん、吉良くん」
期待に応えられなくて落ち込む僕の顎を吉良くんがまたくすぐるように撫でた。
ここ撫でられると気持ちいんだよな。
「謝るなよ。気持ちよかったって言ってんじゃん」
そう言って僕の口の中に今度は自分の舌を入れてきた。
吉良くんはいつのまにか僕のベルトを外してファスナーを下げていたようだ。下着の中に入り込んできた手で直に性器を掴まれて、そこでやっと僕はそのことに気がついた。
吉良くんは隣に座り直すと、向かい合って自分の膝の上に僕をかかえるように抱き寄せた。
腰を寄せられて、お互いの熱いものが触れ合っている。促されるように手を握られ、お互い包み込むようにそれを握った。
吉良くんに触られている、それだけで体の中心が硬く熱を持った。
一緒に上下に扱かれて自分の手もそれに習って動かしている。すぐに達するのが恥ずかしくて堪えていた。しかし、動くたびに先端から先走りが溢れている。そのせいで手元が水分を孕んだ音を鳴らして、広い部屋に響いていた。
堪えながら息を吐いて、無意識のうちに吉良くんの肩に顔を埋める。
耳元で吉良くんの息遣いが聞こえた。少ししてからくすぐるように、そこを唇がなぞった。
たまらない気持ちになって、体が小さく震える。
吉良くんの手が速度を上げて、握っていない方の手が先端を包み込むように覆いかぶさり、こねるような仕草で刺激した。
その動きでお腹の底に響くような快感に、思わさず足先に力が入る。
息を止めて堪えようとしたが間に合わなかった。
ビクビクと震えた先端から熱いものが溢れ出す。少しだけ遅いタイミングで脈打っていた吉良くんからも。同じように溢れ出し、吉良くんの手の中でお互いの体液が混ざり合っている。
達した後の脱力感で微かに弾む息を整えていると、吉良くんが覆い被さるように僕の頭の横に両手をついた。
僕は脚の間に吉良くんを挟むような体制で彼を見上げている。
僕の顔を確認するように吉良くんの視線が動き、その後でまた唇を重ねてきた。喜ぶかと思ったので、吉良くんの唇をザラリと舐めてみた。
しばらく僕の口内を舌で探った後、唇を離した吉良くんがまた目をのぞいて確認して来る。
「マジでネコじゃないの?試す気もない?」
「うん。チガウ」
まだ疑われている。猫を「試す」の意味が分からないけど、とにかく認めるわけにはいかない。
ルール① 人間の前で猫にならない、猫だとバレてはいけません!
猫だとバレたら春日に記憶を消されてしまう。下手をしたら僕はもう人間になれなくなって、吉良くんに会えなくなってしまうのだ。
体を起こした後、吉良くんがウェットティシュで僕の体を拭ってくれた。
シャワーを使うかと聞かれて、お水が体にかかるのが苦手な僕は躊躇してしまう。
人間が毎日お風呂に入ることは知っているし、訓練の一環として頑張って毎日入ってる。でも、息を止めて体にグッと力を入れてできるだけ素早く済ませてる感じだ。入らなくていいなら入りたくない。
そんなことを考えていたら、テーブルの上に置いてあった吉良くんのスマホが震えた。たぶん誰かから連絡が来たんだと思うけど、僕はそれよりもそこに表示されていた時間をみて青ざめた。
11時45分……牧瀬家の門限は12時だ。
「き、吉良くん!たいへん!怒られる!」
「へ?」
僕は焦って立ち上がり、中途半端だったズボンを引き上げベルトを閉めた。
シャツのボタンを閉めるのは煩わしくて、中途半端な状態だ。
「なんだよ、急に慌てて」
吉良くんはあわあわと動き回る僕をみて眉根を寄せた。僕は吉良くんの質問に答える余裕もなく、
テーブルの上のおウチカードを引っ掴むと転がるように玄関に向かった。
「え?おい」
背後で吉良くんの声がする。でも止まってる場合じゃない。11時45分はかなりやばい。
玄関から飛び出して、エレベーターに滑り込む。エントランスでたまたま誰かを降ろしたタクシーに出会し、運良く入れ違いで飛び込んだ。
焦って口の中がからからで、喉が張り付いて声が出なくなったけど、おウチカードをみせたら、運転手は頷いた。
そして、タクシーが牧瀬家についたのは夜の12時を回ってからだった。
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