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真知はペットボトルの天然水を片手に、テレビにかぶりついた。真知にとって水は心を落ち着かせるための何よりの必需品である。
番組時間はCMも含めて1時間である。ドラマとしては一般的な時間なのだが、大好きな時間はあっという間に過ぎて行くもので、番組は早くも終盤へと差し掛かかる。
ここからは、いよいよお決まりのシーン。”隠さん”の口上と共に透けさんが印籠を見せ、鋼門様が悪人に印籠を渡す場面である。
もちろん真知が一番心待ちにしている場面である。
事件はそれで解決する件なのだが、今日は隠さんがなかなか印籠を出そうとはしない。それどころか悪人との睨み合いが長く続いている。
「あれっ、今日は長いなー、まだ印籠ださないの?」
時計を見ると、時間は19時42分。いつもより3分早い。
「早すぎる…」
真知がそう呟くと同時に、何と悪党共が、鋼門様にいやらしい手を出そうとした。
それを見た真知の怒りは絶頂に達する。
「悪党ども、たった3分で、何するんぞ!」
やり場のない怒りが込み上げて来て、頭に血が昇り、体が熱くなる。
熱くなった瞬間にプロテインXの説明書きのことが、真知の記憶の引き出しから顔を出した。それに続いて、お婆さんが”肉体的危機の時に飲め”と言っていたあの言葉も頭を過る。
今は、鋼門様の肉体的危機である。しかも、真知の心身は熱い。これは、まさしくプロテインⅩを飲む為の絶好のタイミングだ。
普段ならばここで暴れるところだけど、今日は何となくプロテインⅩが飲みたくなって堪らない。
熱くなっている真知はプロテインXを一袋取り出すと、あまり深く考えず、手に持つペットボトルの天然水にそれを入れた。
「水って書いてたけど、天然水でもいいんだよなー」
ちょっと不安もあったが、真知はよく振ってそれを一気に飲み干した。
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