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駿の手は、スマホを握りしめたままだった。
「さっきも、拓也さんのこと書いてる途中で泣けて来ちゃってさ……」
「お前のその“失恋日記”、結構やばいと思うぞ」
肥田は半ば呆れ、半ば心配そうに言った。
しかし、駿はスマホをポケットにしまい、隠すように腕を組む。
「データ収集だってば。俺の経験が人助けになってるんだから、いいの。知ってるの直人さんだけだし」
駿は、これまで自身が経験した失恋の経緯と、痛みとさえ呼べる感情を鮮明に記録していた。時に感情的に寄り添い、時に理性的に働くスタッフとしての手腕は、本人の実体験を元に作り上げられたものだったのだ。
誰よりも傷付いたからこそ、問題も、解決へのアプローチも知っている。ゆえに“恋愛マスター”を自称できると言う。
ようやく落ち着き、大きくため息を吐く駿。
「……サイテーって言われちゃった」
打ち明けられた肥田が尋ねる。
「何したんだ?」
「さあ、何でだったっけ」
一般的な薬品に比べ、チャイブの即効性は異常だ。
みるみるうちに目から光が消え、表情を失っていく後輩の様子を、肥田は何かおぞましいもののように見ていた。
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