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サービス完了期日が迫る中、拓也はいつもの部屋で、駿に想いを告げた。
惚れっぽいと思われても構わない。事実、そうであるのだから。
駿はもちろん、その想いを受け取りはしなかった。
ただし、冷たく突き放すのではなく、
「勘違いしてるだけだよ。よくあるの、そういうお客様」
と優しく諭し、さらにキスまでしてみせた。
驚き、赤面し、戸惑う拓也。
駿はその顔を覗き込み、真剣な表情で尋ねる。
「俺は他のお客様にもこういう事するよ。越沼さん、そんなの耐えられないでしょ? 付き合って幸せになれる相手じゃない」
そこで拓也は、彼がクライアントを傷付けないよう、惨めな思いをさせずに身を引く術まで心得ているのだと理解した。
だが、訴えずにはいられなかった。
「僕、また失恋するんだ……こんな短期間で……」
「失恋じゃないよ。サービスが完了しただけ。もう元カレさんのこと、考えなくなったでしょ?」
「…………」
拓也は否定できなかった。すべてが、彼の言う通りだったからだ。
「じゃあ、俺の仕事はここまでだね」
契約完了のサインを受け取り、部屋を出る前に、駿はまた、あの手段を使った。
「ほら、俺の嫌いな所言ってみてよ」
「優しすぎ、キザ、人の気持ち分かってない……」
拓也はやむを得ず挙げていく。
「……サイテーだ、お前なんか」
最後に悪態をついたが、駿はすべてを包み込むように、拓也を抱きしめた。
「よくできたね。お疲れ様。今夜はぐっすり眠って」
「…………」
黙って腕を回す拓也に、駿が確認する。
「……あの薬、使う?」
「え?」
拓也は、少し考えてから思い出した。
初めて来た時に紹介された、ハート型の薬のことだ。今となっては名称すら覚えていない。
「ううん、いらない。怪しいし。駿のこと好きだった事、忘れたくないから……」
ゴミとして処分した大輔との思い出とは違い、駿への想いは、手放したいと思わなかった。
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