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深夜の部屋で1人、『失恋からの立ち直り方』を検索していた越沼 拓也は、突如表示された〈失恋レスキューサービス〉なる怪しいネット広告に目を引かれる。
内容は、パーソナル・スタッフがクライアントの元へ向かい、現状把握や目指すゴールなどのカウンセリングを経て、まるで友達のように叱咤激励し、30日間で失恋から立ち直らせるというもの。
料金は月給3ヶ月分。ただし現在はキャンペーン期間で1ヶ月分、さらに返金保証付きだという。
失恋で傷付いただけでなく、一人で悩む事にも疲れた拓也は逡巡した末、申し込んでしまった。
遅い時間にも関わらず、さっそく派遣されてきた小池 駿は、拓也と同世代の20代後半のようだった。
中肉中背で冴えない容姿の拓也とは違い、すらりと背が高く、明るい色の襟付きシャツを着て、ビジネスバッグを持っている。
「こいぬまさん?」
申し込みフォームに入力したふりがなまで、しっかりと確認したらしい。
「そうです……こしぬまって書いて、こいぬま」
スウェット姿の拓也は玄関扉を押さえたまま答えた。
金曜日からこの日曜日の深夜まで、スマホ以外は何も手に付かなかったが、人に会う事になり、急いでシャワーと髭剃りだけは済ませていた。
「了解。俺のことは小池でも、駿でもいいから。よろしくね」
彼は玄関先で名刺を渡すと、“恋愛マスター”という肩書きを自称し、必ずそのつらさを忘れさせると宣言した。
部屋に上がり、テーブルを挟んで座る2人。
「一応、お知らせなんだけど」
拓也が利用者アンケートを記入する間、駿はバッグを開け、何やら取り出した。
「相手に関する感情の記憶を消す薬っていうのもあって。恋淵製薬さんの新薬で特許出願中。まだ臨床試験段階だから、一般的に流通はしてない」
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