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「越沼さんは、ダメージを受けてるって言ったけど、失恋で鼻血は出ない。でも好きな人の事を想像すると鼻血が出る。つまり体に働きかけるパワーが強いってこと。だから新しい恋が必要なの」
そう言われても、拓也は腑に落ちない。
「失恋で死ぬ人もいる……」
実際、頭を過ぎらなかった事もなかった。それ以外の事が考えられず、何も手に付かず過ごしていたのだ。
しかし、駿は冷静に否定する。
「それは自分でその道を選んでるだけ。フラれたショックで心臓が止まった人がいる?」
「…………」
拓也は言い返せなかった。
駿はそこで話を切ると、ティーブレイクにしようと提案した。ポケットから、スティックタイプのコーヒーとティーバッグを取り出して見せる。
「事務所から持ってきたんだ。もう遅いから、カフェインレスにしようと思って。コーヒーと紅茶どっちが好き?」
狭いキッチンのケトルで湯を沸かし、2人分のカップに注いでいる間も、拓也はやはり大輔のことを考えずにはいられない。
「ペアマグだ。かわいい」
駿が後ろから手元を覗き込んだ。
大輔が家に来るようになった頃に買った物で、並べると向かい合わせになるようキャラクターがプリントされている。
「もう使わないと思ってたけど……」
大輔への思いにも、真正面から向き合わざるを得ない。紅茶の色のように、じわじわと滲み出してくる。
拓也はケトルを置き、湯気のたつ水面を見つめた。
「……やっぱり僕、大輔さんがいい。大輔さんじゃないとダメ」
「なんで?」
駿が聞き返した。確かに会ったばかりだが、心の弱みを見せる事で、まるで友達のような距離感になっていた。
「なんでって……好きだからだよ」
「向こうは興味が無くなったって言ったんでしょ? 自分に興味ない相手といて、越沼さん、幸せになれるのかな?」
「…………」
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