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黙り込んだ拓也の隣に立つ駿は、新たな視点を提案した。
「逆に考えてみよっか。その、大輔サンの嫌だった所は?」
思わず聞き返す拓也。
「嫌いな所を挙げたらあの人のことを嫌いになれるって言ってる? そんな単純な話じゃないよ」
「いいから。ほら、何でも挙げてみて」
しかし、拓也は答えられない。首を振った。
「ないよ……思いつかない。大好きだったんだもん……」
「それはないね。ありえない」
ばっさりと否定された拓也は、怒りが湧いてくるのを抑えられなかった。感情が動いたのは久しぶりだった。
「はあ?」
「大好きって言う割に、越沼さん、大輔サンのことちゃんと見てなかったんじゃないの? 全部を知ってるって言える?」
その言葉に、拓也は思わずカップを置いて、駿に向き直った。
「僕ほど大輔さんのこと見てた人はいない! あんなに好きになって付き合ったんだ、何でも知ってる! いい? あの人は仕事もスポーツもできて、カッコいいし、すごい人気者なの。ずっとスマホ気にしてんのは、ちょっとアレだけど──」
「はい、それ」
駿が遮り、拓也の鼻先を指差した。
「え?」
「今、大輔サンの嫌いな所言ったね」
「ちが、今のは勢いで、つい……」
焦って否定しようとする拓也だったが、
「人間、本当に心にも無いことは言えないもんだよ」
「…………」
冷静な言葉に、またやり込められてしまった。そうだと言わざるを得ない。
見て見ぬふりをしていた部分に、スポットライトを当てられたような気分だった。
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