healing

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9月15日、金曜日。 最寄駅を7時45分に発車した通勤電車を 途中で降りると、迷わず東京駅に向かった。 行き先なんて決めていなかった。 行き交う人の流れに任せ、 直感で選んだあるホームに上がると、 売店でペットボトルのお茶とグミを買い、 電光掲示板に表示された時刻表を見上げる。 次の電車は、約5分後。 とにかく今は遠くに行きたかった。 現実から離れることさえできさえすればと 気持ちがはやる。 やがて、電車がホームに入って来た。 僅かな空席が見える電車に乗り込むと、 ボックス席の隣に位置する2人がけの席に 身を置いた。 僕は旅行を含め、 日本から一度も出たことはなかったが、 こういう心境の時こそ 基本時刻通りに発着してくれる 日本の交通網は素晴らしいと思った。 ワイヤレスイヤホンを耳にし、 通路を挟んだ向こう側の車窓を眺めた。 林立するビル、派手な看板。 通過する駅のホーム。 高架を走る電車はスピードを上げ、 それらを次々と一瞬のものにしていく。 手の中にあるスマホには、 会社の着信が数回入ってきていたので 直属の先輩のLINEから 今日は休むと素早くメッセージを送ると、 電源を落とした。 赤羽、浦和を過ぎ、 間もなく大宮到着というところで息を吐き、 初めて売店で購入したお茶を口にした。 そこで喉が乾いていたことに気がついた。 ゆっくり口に含み、喉を潤した。 多数の乗客が大宮で降り、 僅かな乗客を乗せた電車が再び動き出す。 ここから先のことは、 終点まで行って考えよう。 ゆっくり目を閉じ、視界を遮断した。
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