川のくらげ

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 僕とトモエは、山の中へ分け入っていた。  川はさすが山の上流という趣で、どこもかしこも急で、流れがそれなりに激しい。 「トモエ、君の弟さん、どこに沈んでいるのかってだいたい見当はついてるのか?」 「まあ、少しはね」  特に険しいところでは、ごつごつとした大きな岩の上を、ほとんど四つん這いになって進んでいく。  川沿いは道が整備されていない場所が多く、何度もスニーカーの底が石で滑った。 「じゃあ、僕と二人でなんかじゃなく、大人を呼べばいいじゃないか。そのほうがずっと」 「だめなのよ、そんな大勢連れてきたって。一人がいいの」 「一人? 二人じゃないか」 「私と、もう一人って意味。私じゃだめだったから」 「だめだったって、君、何度も弟さんを探しに来てるの? 危ないよ」 「仕方ないのよ。私が見つけてあげなくちゃ」  道理で、トモエはこんな道なき道を迷いもせずに進んで行けるわけだ。  やがて、正午が近くなった。  僕たちは、手ごろな岩に腰かけて、それぞれに持ち寄ったお弁当を開いた。 「トモエは、弟さんとは仲が良かったんだ?」 「すごく。どこ行くにも一緒だったし、かわいくて仕方なかった。大きくなると、ちょっと生意気になってきたけど。女子に興味持ちだしたりして」  小学生の男子なら、そんなものかもしれない。 「でもさ、あまり遅くなると危ないよ。猿とか出るんだろうし。その目当ての場所って、まだ遠いの? 明るいうちに引き返せるくらい?」 「うん。ちょうどこの辺」 「えっ、そうなのか」 「そうだよ。この、今座ってる岩が目印なの。私が沈めたんだから間違いない」  沈めたって何を、と訊こうと思った瞬間、後頭部に衝撃が走った。 「弟が、好きな子ができたなんて言うから許せなくて、ここに沈めたやったのに、私、凄く後悔してて。山の神様にお願いして、身代わりを連れてくればっていうから、ようやく用意できたのね」  そう言いながら、トモエは、僕の頭に何度も石を振り下ろした。  身代わり? 誰の?  激痛で思考が働かない。
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