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太陽が真上にある。
白い大小の丸いものが、ゆらゆらと水の中を漂っている。
まるでくらげだ。
海の底から、くらげが泳ぐのを見上げているみたいだ。
くらげは、ただ漂うのではなく、一様に水面に向かって浮かび上がっていった。
あれは、……
でもあれはくらげではない。
■
八月三十一日が夏休み最後の日だとは限らないと知ったのは、中学一年生の六月――二ヶ月ほど前――にこの県に越してきてからだった。
「ふーん、東京の夏休みって長いのねえ」
各学年に二つずつしかクラスがない中学校で、僕と同級生になった湊トモエは、つまらなそうにそう言った。
引っ越す前の僕の家は千葉県の柏市だったが、彼女にしてみたら、千葉県北西部はほぼ東京という扱いらしい。
日焼けした肌や、あまり丁寧さの感じられないカットを施されたショートボブは、彼女によく似合っていた。
トモエは、七月にはクラスで僕と最も話の合う友人になったし、八月にはほとんど毎日連れ立ってどこかへ遊びに行く程度の仲良しになっていた。
「今日は川に行こうよ」
お盆を迎えようという八月の半ば、来週には二学期の開始を控えた朝に、うちに来たトモエがそう言った。
「川? 釣りとか?」
「そんなわけないでしょう」
「そりゃそうだよね。泳ぐのか。水着出すよ」
「それも違う」
はて。
それでは沢蟹でも探しに行くのかしら、と思った僕に、トモエは耳打ちした。
急に女子の顔が間近に来たので慌てたが、トモエの言葉を聞いて、そんな浮ついた気持ちは吹き飛んでしまった。
「私の、一つ下の弟の水死体を探しに行くの。去年川で行方不明になって、まだ見つかってないから、どこかの川底にいるんだと思う」
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