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翌朝は仕事が休みの土曜日だったこともあって、油断していたら10時まで寝過ごしていた。
体はピンピンしている。僕は思い立って、田舎の母に電話をかけた。
「もしもし、母さん?」
「ああおはよう往人、誕生日おめでとうねえ」
「ハハハ、一日遅いよ母さん! 昨日のうちにおめでとう欲しかったな」
「そうねぇ。でもねえ、あんたには今まで言ってなかったけど、うちはほら農家でしょ? 早く働き手が欲しかったから、あんた本当は4月2日生まれなんだけど、ホラ、あんたが生まれたところの産婦人科の先生、お父さんの親友じゃない? そのよしみで、一日前倒しにして、4月1日生まれってことにしてもらったのよ。あんたが無事今日の日を迎えて、一日過ぎたら言おうと思ってたんだけど、ま、ここまできたら大丈夫よね。改めて、おめでとう、往人」
「……」
聴き終えた瞬間、目の前がぐらりと歪んで、肺が空気を取り込むのを拒み始めた。
ああ、……
ああ、僕は、ああ、いったい、
僕は何のために生まれ、生まれて、きた、のか……──
〈第一話 完〉
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