第一症状 〈寿命〉

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第一症状 〈寿命〉

僕の家では代々、女は長生きでも、男は35まで生きられない運命だと決まっている。 それは呪いとも、単なる偶然だとも言われているけれど、母方の叔父に言わせれば、 「つまり、家系的なものだよ」 のひとことだ。 言った叔父も、33の時にふいの病で亡くなった。 初めはただの風邪だったのに、それが異様な速さで悪化して肺炎に至り、あっけなく息を引き取ったのだ。風邪から数えて僅か三日後のことだった。 僕の父は養子縁組で、外から入ってきた人だったから、還暦を過ぎた今でも元気にしている。 けれど母方の祖父と、そのまた祖父と、各々の兄弟たちはみな33歳前後で亡くなっている。35を目前にして、原因不明の心不全で亡くなった者もいた。 僕には、一年前から付き合っている恋人の由縁(ゆえ)がいる。 彼女にはそのことを伝えてられていない。 言えないまま34歳も半ばを過ぎて、心のどこかで、自分だけは大丈夫なんじゃないかという気がしていた。 そうして今日、僕は念願だった35歳の誕生日を迎えた。 時刻は午後11:59:50。今日の終わりのカウントダウンが始まる。 9、8、7、6、5、4、3、2、1、……0。 日付が変わった、ついに呪縛が解けたのだ! 長い夜明けを迎えた僕は、一人きりのアパートで思い切り万歳をした。 これでようやく、ぐっすりとと眠れる。 はぐらかしていた由縁との北海道旅行もやっと前向きに考えられる。 楽しい旅行プランをうっとりと夢見ながら、僕は喜びに震え、やがて眠りに落ちていった。
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