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せっかち卯月とのんびり亀田
「かーめー! 早く行くよー?」
2個下の幼馴染みの亀田をいつものように呼んだ。
「かめ」はおっとりしていて歩くスピードも遅い。ニコニコ顔で、縦に長い体を少し左右に揺らしながら歩く。
「ねー! 予約の時間に遅れるってば!」
「あはは、うーちゃんは相変わらず、せっかちだね〜」
お互い社会人になってから、たまにこうして二人で飲みに来ている。たいてい私の愚痴を「かめ」に聞かせているだけなんだけど…。
「うちのセクハラ上司がさぁ、卯月さんは結婚するつもりないの? とか普通に聞いてくるの!」
ドン! とテーブルに勢いよくジョッキを置いて、私は目の前の「かめ」を睨みつけた。彼は笑顔のまま、ただうんうんと頷く。
「仕事ぶりを褒めるとかは一切なくて、そういう話ばかりしてくるんだよー…。何でかな~…。私だって頑張ってるのにさぁ〜…」
毎度の如く、私は1時間も経つと酔いが回って眠ってしまう。ちょっとペースが早いのかもしれない。
ふわふわとした意識の中、いつも「かめ」の柔らかな声だけが聞こえる。
「うーちゃん。頑張ってるね、えらいね」
頭をポンポンとされると、私の意識はさらに深いところへ沈んでいった。
***
翌朝、コーヒーのほろ苦い香りで目が覚める。
その香りで彼の存在を認識する。
テーブルの向こうで微笑む「かめ」。
「おはよ、うーちゃん」
「…おはよ。かめ」
彼は酔い潰れた私を介抱し、翌朝まで側にいてくれる。幼馴染みの特権…いや、彼だから許せているのかもしれない。
「かめ」は何もしてこない。きっと女として見られてはいないんだと思う。
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