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それから数ヶ月経った頃、私は一つの悩みを抱えていた。気持ちが落ち着かなくて、また「かめ」を誘い、飲みに来ていた。
汗をかいたグラスを無意識に指で撫でながら、職場での出来事を話した。
「同じ部署の先輩からさ、頻繁に飲みに誘われるようになって…なんか、私に気があるっぽいんだけど…分からないんだよね。その先輩モテる人だから、何で私なのかなって…」
「かめ」は相槌も打たずに、ただ聞いている。
真剣に聞いてるからか、いつもの笑顔はない。
「うーちゃん、その人のこと好きなの?」
「うーん…分からない」
――今日は何だか酔えないな…。
「かめ」もつまらなそうな顔してるし、今日は早々帰ろう。
居酒屋を出ると、少し火照った顔が冷えた外気に触れて気持ちいい。振り返り、後ろの「かめ」に声をかけた。
「かめー、早く帰ろ…」
ずっと後ろにいたと思っていた彼がいつの間にかすぐ側にいた。驚いてヒールの踵が外れる。
「かめ」はよろけた私を抱きとめた。
「うーちゃん…俺、うーちゃんが好きだ」
「…へっ?」
さらに驚き、仰け反りながら彼の顔を見上げた。
真剣な眼差しに吸い込まれそうになる。
「ずっと、好きだった。うーちゃんのこと。だから…その先輩のところに行かないで欲しい」
「ちょ、ちょっと待って…気持ちが追いつかない…」
――今までそんな素振り見せなかったじゃない!?
戸惑う私に「かめ」は笑った。
「いいよ、ゆっくり考えて」
そう言い、彼は私の手を取ると、ゆっくり前を歩いた。大人しく手を繋がれたまま私は、その大きな背中を見つめた。
――「かめ」のくせして、何よ…。
心臓がドキドキする。甘く苦しい胸の痛みで自分の気持ちを知った。
せっかちな私は、きっとすぐに彼に追いつくと思う。
――待ってろよ! 「かめ」。
*☆終わり☆*
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