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「でも、今日こんなに素敵にメイクしてもらったら…少し自信が持てました! 私だって、やればできるんだぞって」
できる限りの笑顔を彼に向けると、白鳥くんは目を細めて微笑んでくれた。胸が熱くなる。
彼を見ていると目にじわじわと涙が溜まりそうで、顔を背けた。
「陽菜ちゃんは、メイクをしなくても十分素敵だよ。もっと自信を持っていい。もしも落ち込んだ時、メイクすることで自信を取り戻せるなら、それを利用すればいいよ」
涙目で見上げる私に優しい笑顔を向けたまま、白鳥くんは言った。
「僕も以前は自分が嫌いだったよ。理想とする自分とは程遠かった」
「え!? そんな素敵なのに…」
思わず発した言葉に自分で戸惑う。
「ありがとう」と彼は笑った。
「でも、メイクと出会ってからは自分の活かし方が分かった気がしたんだ。この世界に入ってからの方が僕は認めてもらえたし、生きやすくなった」
「それって…」
ついまた口が先走る。
――彼は男性であることに違和感があるのかな…。
そんな事がふと思い浮かんでしまった。そういった性自認の話は最近よく聞く話だったから。
私のその考えが見透かされたのか、彼は「あぁ」と納得したように言うと、きれいな流し目をしてニッと微笑んだ。
「僕は、異性愛者だよ?」
一瞬、何を言われたのか理解できず「異性…愛者?」と頭の中で繰り返した。彼の言葉と合致すると、急に恥ずかしくなり、耳が赤くなったような気がした。
「…なんか、すみません」
「いえいえ、よく勘違いはされるから」
私の反応にクスクスと笑う彼の少し後ろで、その背中を見つめた。念じるように彼を見る。
――もっと自分を好きになりたい、自信をつけたい。
そしていつか、彼の隣りに並べるといいな…。
*☆終わり☆*
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