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「やっぱ…留学するから誰とも付き合わないの?」
信号待ちをチャンスに、俺は彼女の本心を探りにいった。真琴は困ったように俯いたまま、足元の小石を転がしている。
「うーん…そう…かな?」
「何で疑問形? 怪しい〜」
今度は俺がからかうと、チラッと上目遣いに見られてドキドキした。何か言いたげな表情だった。
信号が青になる。もう目の前は駅だ。
「荷物、ありがと」
そう言うと自転車の籠から、自分のカバンを取って肩にかけた。
駅に着くと、彼女の乗る電車が少し先に見えた。
俺は近くに自転車を置いて、改札まで付き添う。
「じゃあ…また明日な」
「うん、またね」
真琴は改札を出てから、くるりと振り向き、笑顔で手を振った。アナウンスが流れホームに電車が入って来る。乗り込むと真琴は出入口に立ち、また小さく手を振った。
何回、手振るんだよ。
小動物みたいで可愛くて、思わず笑うと扉の向こうで「何!?」みたいな反応をする。
発車ベルが鳴り響き、電車が走り出した。
明日も会えるのに、どうしていつもこの瞬間は切なくなるのか…。
自転車を取りに向かうと、俺のスマホにメッセージが入った。
――『好き』
真琴からだった。
スタンプも顔文字もなく、ただシンプルに。
――分かってた。俺達はお互いが好きだということを。もっと早く気持ちを伝えれば良かった。
――『俺も、好き』
それだけ返して、自転車を走らせた。
きっと彼女は行ってしまう。それは変えられない。
でも言いたい。
――月へ行くなよ、かぐや姫。
*☆終わり☆*
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