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元気になった要に手を引かれ、近くだからと母親が働くスナックへ連れて行かれた。
下町の商店街が立ち並ぶ一角にその店はあった。
――スナック『竜宮城』
カラン、と音を立てドアを開けると、開店の準備をする一人の女性がいた。
年は俺より上か…? 30代後半くらいのキツめの化粧をした女性がこちらを見ている。美人ではあるが威圧感がすごい。
――この人が要の母親…?
「ママ! ただいま!」
要が女性のいるカウンターへ入ると、グラスを取り出し、俺にオレンジジュースを注いでくれた。戸惑いながらもカウンターの椅子に腰かけ、目の前の女性に会釈をした。
「あ、あの要くんのお母さんですか…?」
「…は?」
グラスを拭きながら、切れ長の目で俺を見る。
気まずくなった俺の後ろで、ランドセルをテーブルに置いた要が店の奥へ向けて声をかけた。
「母ちゃーん! ただいまぁ!」
すると今度は細身のふんわりとした雰囲気の女性がカーテンを開けて出てきた。年は20代後半に見える。
肩まである薄茶色の毛先をカールさせ、要と同じきれいな瞳をしていた。
「要、おかえり!」
二人はハグをし、二三、話をすると俺に視線を向け、にこやかに近づいてきた。少し露出の多いワンピースに俺は緊張してしまう。
「すみません、要がお世話になったようで…」
「いえっ! たまたま通りかかって…」
要を見ると鼻先に人差し指を当てて、眉間にシワを寄せている。「いじめのことは黙ってて」と言っているようだ。
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