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「要くんが、ちょっと転んでしまったので、少しだけ手当を…」
「ありがとうございます。本当にすみません」
要と一緒にお辞儀をすると「何かお礼を…」と言ってキョロキョロし始めた。
「大丈夫です!」と俺は慌てて席を立ち、逃げるように店を出た。後ろから声がして振り向けば母親が駆け寄ってきた。
「これ…お店の名刺なんですけど、良かったら。お酒はもちろん、お番菜とかもあるので、お夕飯食べに来て下さいね。…お礼なので無料にします」
「えっ…あ、ありがとうございます」
花のようないい香りがした。またドキドキしながら、彼女から名刺を受け取る。店名の下に「美姫」とだけあった。これが彼女の名前か…。
俺達はお互いにペコペコと頭を下げながら別れた。
後から来た要がこちらに大きく手を振るのを見て、俺も振り返した。
***
その後、一度は顔を出しておこうと思い『竜宮城』へ足を運んだが、出される料理の旨さと居心地の良さに、何度も通うようになった。
店のママにも常連扱いをしてもらい、美姫さんとは要の話で盛り上がった。
ほろ酔いで店を出る時、決まって彼女が見送りをしてくれる。別れ際が寂しいと思うくらい、いつしか俺は、美姫さんに特別な想いを抱いていた。
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