Mx30.4.8 11:40a.m.

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 聞き慣れぬ音にわずかに驚いたレテが顔を上げると、そこには深い青髪の女性が立っていた。  バチッと目が合い、そのままにっこりと微笑んでレテの前にラテボウルを置く彼女に、誰だろう、と疑問が湧く。  カフェ店員のエプロンを付けている。年齢的に明らかにレテより年上で、魔法少女ではなさそうだが── 「お待たせしました! 副店長円堂特性ラビット3Dラテアートです!」 「ええと……あなたは……」 「氷室と言います! 昔ここでバイトしてたんですけど、今日は人手が足りないからって米田マスターに助っ人を頼まれまして。──今日は送別会だそうですね!」  不意に差し出された、氷室と名乗る女性の手を、何故かレテはなんの躊躇いもなく取った。 「まじょりシティーの皆の幸せのために、今日まで闘ってくれてありがとうございました。その分、これから貴女自身にたくさんの幸せが降ることを祈ってます」 「……ありがとう……ございます……」  握手する手に、無意識にきゅっと力が籠もる。  ──どうしてだろうか。その温かさは、レテの中の何かを呼び覚ます。  得体の知れない切なさと、その正体が掴めないもどかしさ──何故だかどうしようもなく、泣きたくなる。  レテの何とも言えぬ表情を見た氷室は、ふと眉を下げて笑い、それではごゆっくり! と盆を手にテラス席の方へと去っていった。キュン! と再び独特の音が響いて、レテはそれが、彼女が履くインラインスケート靴が床を滑る音なのだと理解した。  ああ、そうか、と思った。  ──に、似ているのだ。   *  *  * 「──もう、いいのかい?」  控え室でエプロンを畳む氷室青乃(あおの)へ、米田が静かに声をかける。 「……はい。勘のいい子ですから、これ以上は。伝えたいことは全部言えたので満足です」  ありがとうございました、と丁寧に頭を下げる青乃に、米田は「なんの」と笑った。 「華維人さんも言っていた通りです。大事なうちの子の願いひとつくらい、叶えてやりたいと思うのが司令官だ。──例え引退していてもね。……ああ、そうそう。ホワイトベリー君は、今もレテ君のことをきみが付けたあだ名で呼んでいますよ。このカフェ拠点で、先代ブルーの影響力は未だ健在だ」 「それは光栄です」  青乃はくすくすと笑い、賑わう店内の方を見やる。  そっと囁いた呟きは、喧騒に紛れて届かない。だが、それでいいのだ。 「──お疲れさま、レテちん」   *  *  *
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